役員退職金を保険で準備する方法|功績倍率での計算と税務の注意点を解説
役員退職金は、勇退のタイミングで数千万円単位の現金が一度に必要になる支出です。利益が出ている年に手元資金から支払えばよいと考えていても、その年の資金繰りや業績次第では、予定していた金額を支給できないことがあります。
そこで多くの中小企業が使っているのが、法人契約の生命保険を財源にする方法です。毎年の保険料として計画的に積み立てながら、在任中に万一のことがあった場合の死亡退職金の原資も同時に確保できる点が、内部留保だけで備える場合との違いになります。
この記事では、退職金の金額の決め方、向いている保険の種類、保険料と解約返戻金の経理処理、受け取る側の税金、そして準備を進めるときに失敗しやすい点までを順に整理します。
| 確認したいポイント | 結論 | 詳細 |
|---|---|---|
| なぜ保険で準備するの? | 保障と積立を同時に用意できる | 勇退時の財源を計画的に積み立てながら、在任中に万一があった場合の死亡退職金の原資も同時に確保できます。 |
| 退職金はいくらが目安? | 功績倍率法で算出するのが一般的 | 最終報酬月額×在任年数×功績倍率で計算します。社長は3.0程度が目安とされ、不相当に高額な部分は損金になりません。 |
| どの保険が向いている? | 勇退時期に返戻率のピークが来る型 | 長期平準定期保険、逓増定期保険、低解約返戻金型の終身保険が代表例です。勇退までの期間で選び分けます。 |
| 受け取るときの税金は? | 退職所得として負担は軽くなる | 退職所得控除を引いた残額の2分の1が課税対象です。ただし役員在任5年以下では2分の1課税が使えません。 |
この記事でわかること
- 役員退職金を保険で準備する仕組みと、内部留保だけで備える場合との違い
- 功績倍率法による支給額の計算方法と、損金として認められる金額の考え方
- 勇退までの期間別に見た、財源づくりに向いている保険の種類
- 保険料の資産計上ルールと、解約返戻金を受け取った年度の経理処理
- 退職所得としての税金の計算と、手取り額の具体的な試算例
| 退職金の目安と、必要な保険料を試算します 最終報酬月額と勇退までの年数が分かれば、必要な退職金額と、その財源をつくるための保険料の水準は概算できます。まずは数字を確認するところからご相談ください。>> 保険の無料相談はこちら(M.STOCKs 相談窓口) >> 保険料シミュレーションはこちら |
役員退職金の準備に保険が使われる理由
退職金の財源をつくる方法は、内部留保、共済制度、生命保険の3つに大きく分かれます。まず、保険が選ばれる背景を整理します。
まとまった現金が一度に必要になる
役員退職金は、在任期間が長いほど金額が大きくなります。最終報酬月額が100万円、在任25年の社長であれば、計算上は7,000万円を超えることも珍しくありません。
この金額を勇退の年に一度で支出するため、支給の年度だけキャッシュフローが大きく崩れるのが役員退職金の特徴です。金融機関から借り入れて支給するという方法もありますが、返済がその後の経営を圧迫します。
内部留保だけで備えるときの問題点
利益を内部に残して備える方法は分かりやすい一方、積み立てたつもりの資金が設備投資や運転資金に回ってしまい、勇退の時期に手元に残っていないことがあります。使途を区分していない資金は、必要になるまで残りにくいという性質があります。
また、内部留保が積み上がると自社株の評価は上がっていきます。後継者へ株式を引き継ぐときの税負担が重くなるため、事業承継の観点からも、利益をそのまま溜め込む方法には限界があります。
保険で準備する場合の基本的な仕組み
法人を契約者、社長を被保険者とし、保険金と解約返戻金の受取人を法人にする契約を結びます。毎年支払う保険料の一部または全部は損金になり、解約返戻金は年数の経過とともに積み上がっていきます。
勇退の年に契約を解約し、受け取った解約返戻金を退職金の支払いに充てます。解約返戻金は益金、退職金は損金となるため、同じ年度に処理すれば課税所得への影響を抑えられるというのが基本の流れです。
在任中に万一のことがあった場合は、死亡保険金が会社に入り、死亡退職金と弔慰金の原資になります。1本の契約で勇退と死亡の両方に備えられる点が、積立方法との大きな違いです。
役員退職金の金額はどう決めるか
財源を用意する前に、いくら支給するのかを決めておく必要があります。金額の根拠がないまま高額な退職金を支給すると、税務上、損金として認められない部分が出てきます。
功績倍率法による計算式
実務でもっとも使われているのが功績倍率法です。計算式は、最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率となります。
最終報酬月額100万円、在任25年、功績倍率3.0であれば、100万円×25年×3.0で7,500万円です。最終報酬月額が計算の起点になるため、勇退の直前に役員報酬を下げると、支給できる退職金の水準も下がります。
報酬を減額する予定がある場合は、退職金への影響を計算したうえで判断します。逆に、勇退の直前だけ報酬を引き上げる方法は、退職金の水準を高く見せるための操作とみなされる可能性があります。
功績倍率の目安と損金にならない部分
功績倍率は役職ごとに設定するのが一般的で、社長は3.0程度が一つの目安とされています。専務や常務はそれより低い倍率を設定する例が多く見られます。
ただし、法人税法では役員給与のうち不相当に高額な部分の金額は損金に算入されないと定められています。判断は、その役員の職務内容、在任期間、退職の事情、会社の収益状況、同業で事業規模が近い会社の支給状況などを踏まえて行われます。
倍率3.0が常に認められるわけではないため、金額を決める段階で税理士に確認し、根拠を残しておくことが実務上の対応になります。
死亡退職金と弔慰金の扱い
在任中に亡くなった場合は、死亡退職金と弔慰金を分けて支給します。死亡退職金には、相続税の計算上、500万円×法定相続人の数の非課税枠があります。
弔慰金には別の枠があり、業務上の死亡であれば最終報酬月額の36か月分、業務外の死亡であれば6か月分までが弔慰金として扱われます。この範囲を超える部分は死亡退職金として扱われます。
勇退時の退職金だけでなく、死亡時にいくら支給するのかもあわせて決めておくと、必要な保険金額が具体的になります。
退職金規程を先に整備する
金額の根拠を残すうえで欠かせないのが役員退職慰労金規程です。役職ごとの功績倍率、在任年数の数え方、弔慰金の水準、支給の決定手続きを定めておきます。
規程がないまま株主総会の決議だけで金額を決めると、支給額の妥当性を説明する材料が残りません。財源づくりの前に規程を整える順序にすると、必要保障額の計算もそのまま進められます。
| 退職金規程と財源づくりは、セットで整理できます 規程の内容によって必要な金額は変わり、必要な金額によって選ぶ保険も変わります。現在の役員報酬と勇退予定時期をもとに、両方をあわせて確認します。>> 保険の無料相談はこちら(M.STOCKs 相談窓口) >> 保険料シミュレーションはこちら |
役員退職金の準備に向いている保険の種類
財源づくりで重視されるのは、勇退の時期に解約返戻率のピークが来るかどうかです。勇退までの年数を軸に、代表的な選択肢を整理します。
長期平準定期保険
保険期間を90歳や99歳など長期に設定した定期保険です。解約返戻率がゆるやかに上昇し、高い水準が長く続くため、勇退の時期が数年単位でずれても対応しやすいという特徴があります。
勇退まで15年以上あり、時期をはっきり決めきれない場合の基本形として使われます。死亡保障の額が契約当初から一定なので、事業保障を兼ねやすい点も利点です。
逓増定期保険
経過年数に応じて保険金額が増えていく定期保険です。解約返戻率のピークが5年から10年程度と早く訪れるため、勇退の時期が比較的近い場合に向いています。
ピークを過ぎると返戻率は下がっていくので、解約する年をあらかじめ決めたうえで契約するかどうかを判断します。時期が動く可能性が高い場合は、ピークが長く続く型を選んだほうが扱いやすくなります。
低解約返戻金型の終身保険
払込期間中の解約返戻金を抑えることで保険料を下げ、払込満了後に返戻率が上がる終身保険です。保険期間に定めがないため、勇退の時期が大きく後ろにずれても保障が続く点が定期保険との違いです。
死亡保障が一生涯続くことから、勇退後に契約を残して相続対策に切り替えるという使い方もできます。ただし払込期間中に解約すると返戻率は大きく下がるため、払い切れる保険料に設定することが前提になります。
養老保険(福利厚生プラン)
役員と従業員を被保険者とし、死亡保険金の受取人を遺族、満期保険金の受取人を法人とする契約です。要件を満たせば支払保険料の2分の1を福利厚生費として損金に算入し、残りの2分の1を資産に計上できます。
役員だけを対象にすると給与として扱われるため、原則として全従業員を対象とする普遍的な加入が要件になります。役員退職金だけでなく、従業員の退職金も一緒に準備したい場合の選択肢です。
保険以外の選択肢との組み合わせ
小規模企業共済は、経営者個人が掛金を払い、廃業や退任のときに共済金を受け取る制度です。掛金は月額1,000円から7万円までの範囲で設定でき、全額が個人の所得控除の対象になります。
ただし、支払うのは会社ではなく個人であり、会社が支給する退職金の財源にはなりません。会社が支給する分は保険や内部留保で、個人として受け取る分は共済で、と役割を分けて考えると整理しやすくなります。
保険料と解約返戻金の経理処理
法人契約の保険料をどこまで損金にできるかは、2019年(令和元年)の法人税基本通達の改正で整理されました。改正前の情報が残っている資料も多いため、現行のルールを確認します。
最高解約返戻率による資産計上の区分
定期保険と第三分野保険の保険料は、契約時に見込まれる最高解約返戻率に応じて、資産に計上する割合が決まります。50%以下であれば、原則として期間の経過に応じて損金に算入されます。
50%超70%以下の区分では、保険期間の当初4割の期間に支払保険料の40%を資産計上します。70%超85%以下では同じ期間に60%を資産計上し、85%超の区分では当初10年間について最高解約返戻率の90%を資産計上するなど、資産計上の割合はさらに大きくなります。
退職金の財源として使われる商品は返戻率が高く設計されているため、多くは資産計上の割合が大きい区分に入ります。資産に計上した金額は、一定の期間を過ぎてから取り崩し、損金に振り替えます。
参照:国税庁「法人税基本通達 第3節 保険料等」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
解約返戻金を受け取った年度の処理
契約を解約すると、受け取った解約返戻金と、それまでに資産計上していた金額との差額が処理されます。返戻金が資産計上額を上回っていれば、その差額は雑収入として益金になります。
この益金と、同じ年度に支給する退職金の損金を対応させることが、保険で財源をつくるときの中心の考え方です。解約だけを先に行い、退職金の支給が翌期にずれると、解約した年度に課税所得が大きく出てしまいます。
株主総会の開催時期と解約の時期が同じ事業年度に収まるよう、決算月から逆算してスケジュールを組みます。
死亡保険金を受け取った場合
在任中に亡くなった場合、会社は死亡保険金を受け取ります。資産計上していた金額との差額が益金になり、そこから死亡退職金と弔慰金を支給することで、損金と対応させます。
保険金額が支給予定額を大きく上回っていると、差額に課税が生じます。死亡退職金と弔慰金の合計額を先に決め、その金額に合わせて保険金額を設定すると、過不足が起きにくくなります。
| 解約の時期と支給の時期は、事業年度で合わせる必要があります 返戻率のピーク、株主総会の時期、決算月の関係は契約ごとに異なります。既契約の証券をもとに、解約の適切な時期をお伝えします。>> 保険の無料相談はこちら(M.STOCKs 相談窓口) >> 保険料シミュレーションはこちら |
受け取る側の税金と手取り額
役員退職金が財源づくりの手段として使われるのは、受け取る側の税負担が給与より軽くなるためです。計算の仕組みを確認します。
退職所得の計算式と退職所得控除
退職所得の金額は、受け取った退職金から退職所得控除額を差し引き、その残額の2分の1として計算します。他の所得と合算されない分離課税である点も、給与とは異なります。
退職所得控除額は勤続年数によって決まり、20年以下の部分は1年あたり40万円、20年を超える部分は1年あたり70万円として計算します。在任25年であれば、800万円+70万円×5年で1,150万円です。
役員在任5年以下は2分の1課税が使えない
役員等としての勤続年数が5年以下である場合に支払われる退職手当等は特定役員退職手当等に該当し、退職所得控除を差し引いた残額を2分の1にする措置が適用されません。
在任年数は1年未満の端数を切り上げて数えるため、判定を感覚で行うと誤りやすい部分です。就任からの期間が短い役員に退職金を支給する場合は、この点を先に確認します。
参照:国税庁「No.2737 役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2737.htm
手取り額の試算例
最終報酬月額100万円、在任25年、功績倍率3.0で7,500万円を支給する場合を計算します。退職所得控除額は1,150万円なので、(7,500万円-1,150万円)÷2で3,175万円が退職所得の金額です。
これに所得税の税率を適用すると、所得税と復興特別所得税で約1,011万円、住民税で約318万円となり、合計の税負担は約1,329万円です。7,500万円のうち、およそ6,170万円が手元に残る計算になります。
同じ金額を役員報酬として受け取った場合と比べると、税負担の差は大きくなります。数字は他の所得を考慮しない概算のため、実際の金額は税理士に確認してください。
準備を進める手順
金額と保険の種類が見えたら、実際の設計に入ります。順序を守ると、後から調整する手間が減ります。
勇退の時期から逆算する
最初に決めるのは、何年後に勇退するかです。時期が決まれば、返戻率のピークをその年に合わせる形で商品を絞り込めます。
後継者がまだ決まっていない場合は、ピークの水準が長く続く型を選び、時期がずれても損をしにくい設計にするほうが安全です。時期を決めきれないまま返戻率の高さだけで選ぶと、ピークを過ぎた契約を持ち続けることになります。
保険料の上限を先に決める
必要な退職金額から逆算すると、保険料は高く出がちです。業績が良い年の感覚で決めると、利益が落ちた年に払込が負担になります。
年間保険料は、業績が落ちた年でも払い続けられる金額に抑えるのが原則です。上限を先に決めてから商品を比較すると、返戻率の高さだけで判断することを避けられます。
不足分の埋め方を決める
上限を設けた結果、退職金の予定額に対して財源が不足することがあります。その場合は、契約を複数年に分けて追加する、内部留保や共済と組み合わせる、支給を分割払いにするといった方法を検討します。
1本の契約で全額を賄おうとすると保険料が過大になりやすいため、複数の手段を組み合わせて必要額に近づけるほうが、資金繰りへの影響を抑えられます。
失敗しやすいポイントと注意点
設計を誤ると、保険料を払い続けたのに予定した財源が残らないという結果になります。相談の現場で多い4つを挙げます。
返戻率のピークと勇退時期がずれる
もっとも多いのが、ピークを過ぎてから解約するケースです。返戻率は下がり続けるため、放置する期間が長いほど受け取れる金額は減っていきます。
契約の時点で、何年後にいくらの解約返戻金を受け取り、何に充てるのかを書き出しておくようにします。設計書のピーク時期は契約ごとに異なるため、一覧にして管理すると見落としが減ります。
分掌変更で支給する場合の要件
代表取締役を退いて会長や非常勤役員になるときに、それまでの在任期間分を打ち切りで支給する方法があります。この場合、実質的に退職したのと同じ事情にあると認められることが必要です。
通達では、常勤役員が非常勤役員になったこと、取締役が監査役になったこと、分掌変更後の給与がおおむね50%以上減少したことなどが例として挙げられています。形式だけを整え、実際には引き続き経営の主要な地位にある場合は認められません。
また、未払金に計上した金額は原則として対象に含まれないため、支給の時期と資金の手当ても合わせて考える必要があります。
損金に算入する時期を誤る
役員退職金を損金に算入するのは、原則として、株主総会などの決議によって金額が確定した日を含む事業年度です。決議より前に見込みで計上することはできません。
解約の時期、株主総会の時期、支給の時期を同じ事業年度に収めるという視点で、決算月から逆算してスケジュールを引きます。ここがずれると、益金だけが先に立つ年度が生まれます。
契約内容の確認を怠る
契約者、被保険者、受取人の設定によって、経理処理も課税関係も変わります。役員のみを被保険者として受取人を遺族にしている場合、支払った保険料が役員に対する給与として扱われることがあります。
契約者、被保険者、受取人、保険金額、返戻率のピーク時期を1枚の表にまとめ、決算のたびに内容を確認する習慣をつけると、想定とのずれに早く気づけます。
まとめ
役員退職金を保険で準備するときは、商品を選ぶ前に支給額を決めます。功績倍率法で金額を算出し、退職金規程に落とし込んだうえで、その財源をつくる契約を選ぶという順序です。
保険の種類は、勇退までの期間で絞り込みます。時期が近ければ逓増定期保険、先が長く時期が動く可能性があれば長期平準定期保険や低解約返戻金型の終身保険が候補になります。
経理処理では、解約返戻金の益金と退職金の損金を同じ事業年度で対応させることが要点です。受け取る側では退職所得として計算され、在任5年以下の場合は2分の1課税が使えない点にも注意します。
必要な金額も、払える保険料も、会社ごとに異なります。決算内容と勇退の予定時期を持ち寄って確認すれば、無理のない範囲での準備の進め方が具体的になります。
| 退職金の財源づくりは、早く始めるほど選択肢が広がります 必要額の試算、保険の種類の絞り込み、既契約の見直しまで対応しています。まずは無料相談か、保険料シミュレーションからご確認ください。>> 保険の無料相談はこちら(M.STOCKs 相談窓口) >> 保険料シミュレーションはこちら |