法人保険の解約返戻金にかかる税務|仕訳・課税の仕組みと出口の決め方を解説
法人契約の生命保険を解約して受け取る解約返戻金は、法人税の課税対象になります。加入するときは保険料が損金になるかどうかに関心が向きますが、実際に手元に残る金額を左右するのは、解約したときの処理です。
課税されるのは受け取った金額の全額ではなく、それまでに資産として計上していた保険料の累計額との差額です。この関係を理解していないと、解約した年度に想定していなかった利益が立ち、税負担が一気に増えることがあります。
この記事では、解約返戻金の課税の仕組み、保険料の資産計上ルール、受け取ったときの具体的な仕訳、解約以外の場面での処理、そして税負担を抑えるための出口の決め方までを順に整理します。
| 確認したいポイント | 結論 | 詳細 |
|---|---|---|
| 解約返戻金に税金はかかる? | 益金となり法人税の対象になる | 受け取った金額から、資産計上していた保険料の累計額を差し引いた差額が課税の対象になります。 |
| 保険料はどこまで資産計上する? | 最高解約返戻率の区分で決まる | 2019年の通達改正により、最高解約返戻率が50%を超える契約は40%から90%を資産に計上します。 |
| 解約時の仕訳はどうなる? | 保険積立金を取り崩して差額を計上 | 受取額と保険積立金の残高を比べ、上回れば雑収入、下回れば雑損失として処理します。 |
| 税負担を抑える方法は? | 損金が出る事業年度に合わせる | 退職金の支給や大規模修繕など、対応する損金がある年度に解約の時期を合わせるのが基本です。 |
この記事でわかること
- 解約返戻金のうち、実際に課税の対象になる金額の計算方法
- 最高解約返戻率による資産計上の区分と、資産計上額を取り崩す時期
- 解約返戻金を受け取ったときの仕訳と、雑収入・雑損失の使い分け
- 減額、払済保険への変更、契約者貸付、名義変更それぞれの税務上の扱い
- 税負担を抑えるための解約時期の決め方と、解約前に確認する手順
| 解約の前に、資産計上額と返戻率のピークを確認しませんか 契約ごとに資産計上のルールも、返戻率のピーク時期も異なります。保険証券と設計書をもとに、解約したときにいくら益金が立つのかを試算します。 |
法人保険の解約返戻金は税務上どう扱われるか
まず、解約返戻金が法人の決算にどう影響するのかを確認します。ここを押さえておくと、後の仕訳の考え方が理解しやすくなります。
解約返戻金は益金になる
法人が受け取る解約返戻金は、税務上、益金に算入されます。売上ではありませんが、会社に入ってくる収益として扱われるため、その年度の課税所得を押し上げます。
利益が出ている年度に、他に対応する損金がないまま解約すると、増えた所得に対して法人税等が課されることになります。中小法人の実効税率はおおむね30%前後とされるため、数千万円の返戻金であれば負担額も大きくなります。
課税されるのは資産計上額との差額
ただし、受け取った金額の全額が課税されるわけではありません。それまでに支払った保険料のうち、資産として計上してきた金額(保険積立金や前払保険料)は、解約と同時に取り崩して損金に振り替えます。
計算は次のようになります。課税の対象になる金額は、受け取った解約返戻金から、資産計上している保険料の累計額を差し引いた残額です。
保険料を全額損金として処理してきた契約には取り崩す資産がないため、受け取った金額がそのまま益金になります。逆に、資産計上の割合が大きい契約であれば、益金として立つ金額は小さくなります。
損金と益金は通算されるという性質
加入中に保険料を損金に算入して税負担を減らしても、解約時には益金が立ちます。両者を通算すると、支払った税金の総額が減るわけではありません。
保険で得られるのは、税を支払う時期を後ろにずらす効果であり、税額そのものをなくす効果ではありません。この点を理解しないまま「節税になる」という説明だけで加入すると、解約の年度に想定外の負担が生じます。
効果が生まれるのは、益金が立つ年度に対応する損金を用意できる場合に限られます。出口をどう設計するかが、法人保険の税務で最も重要な論点になる理由です。
消費税と地方税の扱い
解約返戻金は資産の譲渡等の対価には当たらないため、消費税の課税対象にはなりません。支払う保険料も非課税取引であり、消費税の計算には影響しないのが原則です。
一方で、益金として計上された金額は法人税だけでなく、法人住民税や法人事業税の計算にも反映されます。実効税率で考えると、返戻金のうち益金になった部分のおよそ3割が税として出ていくという見方をしておくと、資金計画を立てやすくなります。
保険料の資産計上ルールを確認する
解約時にいくら取り崩せるのかは、加入中にどれだけ資産計上してきたかで決まります。現行のルールを確認します。
最高解約返戻率による4つの区分
2019年(令和元年)7月8日以後に契約した定期保険と第三分野保険については、契約時に見込まれる最高解約返戻率に応じて、資産に計上する割合が決まります。
最高解約返戻率が50%以下であれば、原則として支払った保険料は期間の経過に応じて損金に算入されます。50%超70%以下の区分では、保険期間の当初4割の期間に支払保険料の40%を資産計上します。
70%超85%以下では同じ期間に60%を資産計上し、85%超の区分では当初10年間について最高解約返戻率の90%を、11年目以降は70%を資産計上するなど、割合はさらに大きくなります。返戻率が高い商品ほど、解約時に取り崩せる資産も大きくなる関係です。
参照:国税庁「法人税基本通達等の一部改正について(定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱い)」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/kaisei/190613/index.htm
資産計上額を取り崩す時期
資産に計上した金額は、そのまま残り続けるわけではありません。一定の期間を過ぎると取り崩しが始まり、残りの保険期間にわたって均等に損金へ振り替えていきます。
取り崩しが進んだ契約は、帳簿上の資産計上額が減っているため、解約したときに立つ益金は大きくなります。同じ返戻率でも、契約から何年目かによって税負担が変わる理由がここにあります。
年間保険料30万円以下の契約
最高解約返戻率が50%超70%以下の区分であっても、一の被保険者についての年換算保険料相当額が30万円以下であれば、支払った保険料を期間の経過に応じて損金に算入できます。
この判定は被保険者単位で行われ、同じ人を被保険者とする契約が複数ある場合は合計額で判定します。小口の契約を複数持っている会社では、合計額が30万円を超えていないかを確認しておきます。
2019年7月8日より前に契約したもの
改正前に契約した保険については、契約した時点のルールがそのまま適用されます。長期平準定期保険であれば前半6割の期間に2分の1を資産計上する、全額損金として処理するなど、商品ごとに扱いが分かれます。
解約を検討する前に、その契約がどの時点のルールで処理されているかを、加入年月日で確認する必要があります。改正後の情報だけを見て判断すると、資産計上額の見積もりを誤ります。
解約返戻金を受け取ったときの仕訳
具体的な処理を、契約のパターン別に見ていきます。基本は、受け取った金額と帳簿上の資産計上額を比べ、差額を計上するという形です。
保険料を全額損金にしていた場合
資産計上額がないため、受け取った解約返戻金の全額が雑収入になります。解約返戻金500万円を受け取った場合、借方に現預金500万円、貸方に雑収入500万円と処理します。
取り崩す資産がない分、益金として立つ金額は最も大きくなります。全額損金の契約は加入時の負担が軽い一方、出口では税負担が集中する構造だと理解しておく必要があります。
資産計上している契約で返戻金が上回る場合
解約返戻金800万円を受け取り、保険積立金の残高が600万円である場合、借方に現預金800万円、貸方に保険積立金600万円と雑収入200万円を計上します。
この200万円が課税の対象になる部分です。帳簿上の資産計上額を正確に把握できていないと、解約後に立つ利益の見積もりがずれます。決算書の保険積立金や前払保険料の残高は、解約を検討する段階で必ず確認します。
返戻金が資産計上額を下回る場合
解約返戻金が400万円で、保険積立金の残高が600万円であれば、借方に現預金400万円と雑損失200万円、貸方に保険積立金600万円と処理します。
この場合は損金が立つため、その年度の課税所得は減ります。返戻率のピークを大きく過ぎた契約や、低解約返戻金型の払込期間中に解約した契約で起こりやすいパターンです。
死亡保険金を受け取った場合
被保険者が亡くなり、法人が死亡保険金を受け取ったときも考え方は同じです。資産計上額を取り崩し、受取額との差額を雑収入とします。
死亡保険金5,000万円を受け取り、保険積立金の残高が1,200万円であれば、差額の3,800万円が益金です。ここから死亡退職金と弔慰金を支給することで、損金と対応させます。支給額を先に決めておかないと、差額に課税が生じます。
養老保険(福利厚生プラン)の場合
死亡保険金の受取人を遺族、満期保険金の受取人を法人とする養老保険では、支払保険料の2分の1を資産計上し、残りを福利厚生費として処理します。
解約や満期のときは、積み上がった資産計上額を取り崩し、受取額との差額を雑収入または雑損失とします。保険料の半分だけを資産計上しているため、定期保険とは差額の出方が変わります。
| 帳簿上の資産計上額から、解約後の利益を試算します 決算書の保険積立金の残高と、保険会社の設計書があれば、解約した場合に立つ益金の額を具体的に計算できます。無料相談でご確認いただけます。 |
解約以外の場面での税務上の扱い
契約を続けながら負担を調整する方法もあります。それぞれ税務上の扱いが異なるため、違いを整理します。
減額(一部解約)
保険金額を減らすと、減額した部分に対応する解約返戻金が支払われます。処理としては、資産計上額のうち減額した割合に対応する部分を取り崩し、受取額との差額を雑収入または雑損失とします。
契約自体は残るため保障は続きますが、その分だけ将来受け取れる解約返戻金も減ります。保険料の負担を下げたい場合の選択肢の一つです。
払済保険への変更
それ以後の保険料の払込をやめ、その時点の解約返戻金をもとに保障額を減らした契約へ切り替える方法です。保険料の支払いは止まりますが、契約は継続します。
税務上は原則として、変更した時点の解約返戻金相当額と資産計上額との差額を、その事業年度の益金または損金に算入します。ただし、同じ種類の払済保険へ変更する場合など、洗い替えを行わずに従来の処理を続ける取り扱いが認められる場合もあるため、契約ごとの確認が必要です。
契約者貸付
解約返戻金の一定範囲内で、保険会社から資金を借り入れる方法です。契約を解約せずに資金を確保できる点が特徴で、受け取った金額は借入金として負債に計上します。
借入であるため益金にはならず、その年度の課税所得には影響しません。ただし利息が発生し、返済しないまま解約すると、返戻金から差し引かれます。一時的な資金需要への対応として使う方法です。
名義変更と2021年の通達改正
法人契約を個人へ名義変更する場合、その保険契約に関する権利の評価額が課税の基準になります。従来は名義変更時の解約返戻金の額で評価していましたが、2021年(令和3年)7月1日以後の名義変更については扱いが変わりました。
解約返戻金の額が資産計上額の70%未満である契約については、解約返戻金ではなく資産計上額で評価するというルールが設けられています。低解約返戻金型の契約を、返戻金が低い時期に個人へ移す方法が制限された形です。
対象となるのは2019年7月8日以後に契約し、資産計上のルールが適用されている契約です。名義変更を含む提案を受けた場合は、現行の扱いを税理士に確認してから判断します。
参照:国税庁「所得税基本通達 一部改正通達」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/kaisei/kaisei_a.htm
税負担を抑えるための出口の決め方
解約返戻金の課税を避けることはできませんが、益金が立つ年度に対応する損金を用意すれば、負担は平準化できます。代表的な組み合わせを挙げます。
役員退職金の支給と同じ事業年度に合わせる
もっとも使われるのが、勇退の時期に合わせて解約し、受け取った資金を役員退職金の支払いに充てる方法です。返戻金による益金と、退職金による損金が同じ年度で対応します。
注意したいのは時期のずれです。解約を先に行い、株主総会での決議が翌期になると、益金だけが立つ年度が生まれます。決算月から逆算し、解約、決議、支給を同じ事業年度に収めるようスケジュールを組みます。
設備投資や大規模修繕の年度に合わせる
退職金以外にも、まとまった損金が立つ場面はあります。本社や工場の修繕、機械の入れ替え、不採算部門の整理などが計画されている年度は、解約の時期として検討できます。
業績が落ち込み、赤字が見込まれる年度に解約するという判断もあります。繰越欠損金がある場合は、その範囲内で益金を吸収できるため、税負担を抑えられます。
複数年に分けて解約する
契約が複数ある場合は、すべてを同じ年度に解約せず、数年に分けるという方法があります。1年あたりの益金を抑えることで、税率の高い区分に一気に入ることを避けられます。
1本の契約でも、全部を解約せずに減額で対応すれば、益金の計上を分散できます。必要な資金額と、その年度に用意できる損金の大きさを見ながら調整するという考え方です。
解約するか継続するかの判断
返戻率のピークが近い契約は、解約の判断を先送りするほど受け取れる金額が減ります。一方で、保障そのものが今も必要であれば、継続する判断もあります。
判断の材料は、今後の返戻率の推移、必要な保障額、その年度に用意できる損金の3つです。このうち一つでも把握できていない状態では、解約の可否は決められません。
解約前に確認しておく手順
実際に動く前に、確認しておく項目を整理します。ここを飛ばすと、想定と違う金額が出てきます。
保険証券と設計書で確認する項目
契約日、契約者、被保険者、受取人、保険金額、保険料、そして年度ごとの解約返戻金の推移を確認します。契約日は適用されるルールを決める情報のため、特に重要です。
設計書に記載された解約返戻金は加入時の見込みであり、配当や特約の有無によって実際の金額と差が出ることがあります。正確な金額は保険会社に照会して確認します。
帳簿の資産計上額と突き合わせる
決算書の保険積立金、前払保険料の残高を確認し、契約ごとにいくら計上されているかを把握します。複数の契約をまとめて計上している場合は、内訳を分けて整理します。
この金額と解約返戻金の見込額を比べれば、解約したときに立つ益金の概算が出ます。この一手間で、解約後の納税額の見当がつくようになります。
決算月から逆算してスケジュールを組む
解約の申し出から入金までには日数がかかります。期末ぎりぎりに手続きを始めると、入金が翌期にずれ込むことがあります。
役員退職金と組み合わせる場合は、株主総会の開催時期も関係します。解約、決議、支給、入金がすべて同じ事業年度に収まるかを、あらかじめ確認しておきます。
| 解約の時期を決める前に、一度整理してみませんか 契約日、資産計上額、返戻率のピーク、対応する損金の有無を並べれば、いつ解約すべきかは見えてきます。既契約の内容をお持ちのうえでご相談ください。 |
失敗しやすいポイント
解約の場面で起こりやすい4つのパターンを挙げます。いずれも事前の確認で避けられるものです。
ピークを過ぎてから解約する
返戻率のピーク時期を把握しないまま契約を持ち続け、下がり始めてから解約するケースです。ピークを過ぎた後の返戻率は年々下がるため、放置した期間だけ受け取れる金額が減ります。
契約の時点で、何年後にいくら受け取り、何に充てるのかを書き出しておくようにします。契約が複数ある場合は、ピーク時期の一覧をつくって管理します。
益金だけが立つ年度をつくる
解約は済ませたものの、退職金の支給や設備投資が翌期にずれ、益金だけがその年度に計上されるパターンです。対応する損金がないため、増えた所得にそのまま課税されます。
この形になると、受け取った資金の一部が納税で出ていき、本来の使途に回せる金額が減ります。解約は、使い道が同じ年度に確定してから実行するという順序を守ります。
資産計上額の把握が漏れている
帳簿上の残高を確認せずに、解約返戻金の全額が使えると考えてしまうケースです。実際には益金に対する税負担が発生するため、手元に残る金額は受取額を下回ります。
退職金の財源として当てにしていた場合、必要額に届かず不足が出ることがあります。試算の段階で税負担を織り込んでおきます。
短期間での解約による元本割れ
加入から数年で解約すると、返戻率が低く、支払った保険料を大きく下回ることがあります。低解約返戻金型では、払込期間中の返戻率が意図的に抑えられています。
業績の変動で保険料が払えなくなり、やむを得ず解約するという流れが典型です。年間保険料は、業績が落ちた年でも払い続けられる金額に抑えることが、結果として出口を守ります。
まとめ
法人保険の解約返戻金は益金となり、課税の対象になるのは受け取った金額から資産計上額を差し引いた差額です。保険料を全額損金にしてきた契約ほど、解約時に立つ益金は大きくなります。
仕訳の基本は、保険積立金を取り崩し、受取額との差額を雑収入または雑損失とする形です。減額、払済保険への変更、契約者貸付、名義変更では、それぞれ扱いが異なります。
税負担を抑えるには、益金が立つ年度に対応する損金を用意することが要点になります。役員退職金の支給や設備投資と時期を合わせ、解約、決議、支給、入金を同じ事業年度に収める形で設計します。
契約日によって適用されるルールが異なり、帳簿上の資産計上額も契約ごとに違います。証券と決算書を突き合わせて確認すれば、解約したときに何が起こるのかは事前に把握できます。
| 解約返戻金の扱いは、契約ごとに確認するのが確実です 課税額の試算、解約時期の検討、既契約の見直しまで対応しています。まずは無料相談か、保険料シミュレーションからご確認ください。 |