小規模企業共済と法人保険の違い|税制メリット・受取時の課税と使い分けを解説
退職金の準備を考え始めると、必ず名前が挙がるのが小規模企業共済と法人保険です。どちらも積み立てながら税負担を抑えられる仕組みですが、性格は大きく異なります。
最も大きな違いは、契約するのが経営者個人か会社かという点です。この違いによって、税制上のメリットが個人と法人のどちらに働くのか、受け取るときに誰が課税されるのか、途中でやめたときにどうなるのかが変わってきます。
この記事では、それぞれの仕組みを整理したうえで、4つの視点から違いを比べ、どちらを優先すべきか、併用する場合はどういう順序で考えるのかまでを扱います。
| 確認したいポイント | 結論 | 詳細 |
| 一番大きな違いは? | 契約するのが個人か法人かの違い | 共済は経営者個人が加入して所得控除を受け、法人保険は会社が契約して保険料を損金にします。 |
| 節税効果が大きいのは? | 効く税金が違うため単純比較は不可 | 共済は個人の所得税と住民税に、法人保険は法人税に効きます。負担がどちらに偏っているかで判断します。 |
| どちらを先に始める? | 共済から始めるのが基本 | 掛金の上限が年84万円と小さく、公的機関の運営で確実性が高いためです。不足分を法人保険で補います。 |
| 受け取るときの税金は? | 共済は退職所得、保険は法人の益金 | 共済金は一括なら退職所得です。法人保険の解約返戻金は会社の益金となり、対応する損金が必要です。 |
この記事でわかること
- 小規模企業共済と法人保険それぞれの仕組みと、税制上の扱いが働く場所
- 加入資格、掛金の上限、資金の使いみちなど4つの視点での比較
- どちらを優先すべきかの判断基準と、併用する場合の順序
- 受け取るときの課税の違いと、同じ年度に重ならないようにする理由
- 途中でやめた場合の元本割れの条件と、加入前に確認しておく点
| どちらをどれだけ使うか、数字で整理できます 役員報酬の水準、会社の利益、勇退までの期間によって、共済と保険の配分は変わります。現状をお聞かせいただければ、具体的な組み立てをお示しします。 |
小規模企業共済と法人保険の基本的な違い
細かい制度の説明に入る前に、両者がどこで分かれるのかを押さえます。ここを理解しておくと、後の比較が整理しやすくなります。
契約するのは個人か法人か
小規模企業共済は、経営者や役員が個人として加入し、個人の口座から掛金を払う制度です。会社は契約に関与しません。運営しているのは独立行政法人の中小企業基盤整備機構です。
一方、法人保険は会社が契約者となり、会社の資金から保険料を払います。被保険者は社長や役員ですが、契約の主体はあくまで法人です。
この違いが、以降のすべての差につながります。共済は個人の資産形成、法人保険は会社の資金準備という位置づけになります。
税制上のメリットが働く場所
共済の掛金は、全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になり、個人の所得から差し引かれます。効くのは所得税と住民税です。
法人保険の保険料は、契約の内容に応じて会社の損金に算入されます。効くのは法人税や法人住民税、法人事業税です。同じ「節税」という言葉で語られますが、負担を軽くする対象がまったく別という点は押さえておく必要があります。
保障があるかどうか
法人保険には死亡保障が付いています。加入した直後に万一のことがあっても、契約した保険金額が会社に入るため、事業保障としての機能を同時に果たします。
共済にはこの機能がありません。死亡した場合は共済金Aとして遺族が受け取れますが、受け取れるのは積み立ててきた金額に応じた額であり、加入直後に大きな金額が出る仕組みではありません。
お金が入る先の違い
共済金は経営者個人に支払われます。会社を経由しないため、そのまま個人の資産になります。
法人保険の解約返戻金や保険金は会社に入ります。個人の手元に渡すには、役員退職金や死亡退職金として支給する手続きが別に必要です。会社に入った資金がそのまま個人のものになるわけではない点は、見落とされやすいところです。
小規模企業共済の仕組み
まず共済の内容を確認します。国が用意した経営者向けの退職金制度という位置づけです。
加入できる人と要件
対象は、常時使用する従業員が20人以下の個人事業主や会社役員です。商業や、宿泊業と娯楽業を除くサービス業では、5人以下という基準になります。業種によって人数の基準が違う点に注意が必要です。
会社役員として加入する場合、登記されている役員であることが必要です。相談役や顧問など登記されていない立場の人、使用人兼務役員は対象外とされています。
参照:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済」
https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/
掛金と所得控除
掛金は月額1,000円から7万円までの範囲で、500円単位で設定できます。年間で最大84万円が所得控除の対象になります。
増額も減額もでき、経営の状況に応じて調整できます。前納の制度もあり、加入した年に前納すれば、その年の控除額を大きくすることも可能です。
共済金の種類と受け取り方
受け取れる金額は請求の事由によって変わります。廃業や死亡による共済金A、65歳以上での退任や病気による共済金B、それ以外の退任による準共済金、自己都合の任意解約による解約手当金という区分です。
金額は共済金A、共済金B、準共済金、解約手当金の順に有利になります。同じだけ積み立てていても、どの事由で受け取るかによって金額が変わるという設計です。
受け取り方は一括、分割、両者の併用から選べます。分割を選ぶには共済金の額が一定以上であることなどの要件があります。
元本割れが起きる条件
掛金の納付月数が6か月未満の場合、共済金A・Bは受け取れません。準共済金と解約手当金については、12か月未満だと受け取れず、掛け捨てになります。
さらに、任意解約による解約手当金は、納付月数が240か月(20年)未満だと掛金の合計額を下回ります。資金が必要になったからといって安易に解約すると、元本を割ります。
ただし、廃業や死亡、65歳以上での退任といった事由による共済金A・Bであれば、この元本割れは生じません。出口をどの事由にするかを意識しておくことが重要です。
| 共済の加入資格を満たしているか、確認しませんか 業種による従業員数の基準や、役員としての要件は見落とされやすい部分です。会社の状況をお聞かせいただければ、加入の可否から整理します。 |
法人保険の仕組み
次に法人保険を確認します。会社の資金で保障と積立を同時に用意する仕組みです。
契約形態と保険料の扱い
会社を契約者、社長や役員を被保険者とし、保険金と解約返戻金の受取人を会社にする形が基本です。支払った保険料は、契約の内容に応じて損金と資産に振り分けられます。
2019年(令和元年)の法人税基本通達の改正により、定期保険と第三分野保険については、契約時に見込まれる最高解約返戻率に応じて資産計上する割合が決まります。返戻率が50%以下なら原則として損金、50%を超えると一部を資産計上する形です。
参照:国税庁「法人税基本通達 第3節 保険料等」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
解約返戻金と出口の設計
解約返戻金は年数の経過とともに積み上がり、商品ごとに決まった時期にピークを迎えます。勇退の時期に合わせて解約し、役員退職金の支払いに充てるのが典型的な使い方です。
受け取った解約返戻金は益金になるため、同じ事業年度に退職金という損金を用意しておく必要があります。この対応ができていないと、解約した年度に課税所得が大きく出ます。
保障を同時に確保できる
加入した直後から契約した保険金額の保障が始まります。積み立てた金額に関係なく、万一のときには保険金が支払われるという点が、共済との決定的な違いです。
借入金の連帯保証をしている経営者であれば、この保障は事業を続けるための資金にもなります。退職金の準備と事業保障を1本の契約で兼ねられることが、法人保険が選ばれる理由です。
金額の上限がない
共済の掛金には年84万円という上限がありますが、法人保険の保険料に制度上の上限はありません。必要な保障額や退職金の予定額に合わせて設計できます。
その分、払い続けられる金額かどうかの判断は会社側に委ねられます。業績が良い年の感覚で高額な契約を結ぶと、後に払えなくなって解約し、元本を割ることになります。
4つの視点で違いを比べる
両者の性格が見えたところで、判断に使う軸ごとに整理します。
税制メリットの帰属先
共済は個人の所得控除、法人保険は会社の損金です。役員報酬が高く個人の税負担が重い経営者であれば共済の効果が大きく、会社の利益が厚い場合は法人保険の効果が大きくなります。
どちらの負担が重いのかは、直近の確定申告書と決算書を並べれば判断できます。感覚ではなく、実際の税額を見て決めるべき部分です。
積み立てられる金額の上限
共済は月7万円、年84万円が上限です。役員退職金として数千万円を用意したい場合、共済だけでは足りません。30年間続けても掛金の合計は2,520万円です。
法人保険には上限がないため、必要額から逆算して設計できます。ただし保険料の負担は会社のキャッシュフローに直接響くため、無制限に増やせるわけではありません。
資金の使いみち
共済金は個人に支払われ、老後の生活資金として自由に使えます。会社の資金繰りには使えません。
法人保険の解約返戻金は会社に入るため、退職金だけでなく設備投資や運転資金にも回せます。加入中でも契約者貸付を使えば、解約せずに資金を調達できるという機能もあります。共済にも貸付制度がありますが、性格は異なります。
途中でやめたときの扱い
共済は20年未満の任意解約で元本を割ります。ただし掛金の減額はできるため、負担が重くなった場合は解約せずに月額を下げるという対応が可能です。
法人保険も、返戻率のピーク前に解約すれば元本を割ります。減額や払済保険への変更という手段はありますが、いずれも受け取れる金額は当初の想定より下がります。どちらも、続けられる金額で始めることが前提になる仕組みです。
| 共済と保険、それぞれいくらが妥当かを試算します 個人と法人のどちらの税負担が重いか、必要な退職金額はいくらかによって配分は決まります。シミュレーションで具体的な金額をご確認いただけます。 |
どちらを優先するかの判断
両方に加入できるのであれば、どういう順序で考えるべきかを整理します。
まず共済から始めるのが基本
加入資格を満たしているのであれば、共済を先に始める判断が多くとられます。理由は3つあります。掛金の上限が年84万円と小さいこと、公的機関が運営していて確実性が高いこと、そして掛金の全額が所得控除になり効率が良いことです。
役員報酬を掛金の分だけ引き上げても、所得控除で相殺されるため個人の税負担は大きく変わりません。会社側では役員報酬として損金になるため、法人と個人の両方で扱いを整えられます。
法人保険を優先すべき場合
借入金が多く、経営者に万一のことがあったときの事業保障が不足している会社では、共済より先に保険を検討します。共済には保障の機能がないため、資金繰りのリスクには対応できないためです。
また、勇退までの期間が短く、必要な退職金額に対して共済だけでは明らかに足りない場合も、保険を先に組む判断になります。
併用するときの順序
実務では、共済で年84万円の枠を使い切り、それでも不足する分を法人保険で補うという組み立てが基本形です。共済の枠は上限が決まっているため、迷う要素が少ないという理由もあります。
そのうえで、必要な退職金額から共済で見込める金額を差し引き、残りを法人保険の保険金額と解約返戻金で埋めるという順序で計算します。両方をあわせて必要額に届くかを確認します。
経営セーフティ共済との関係
同じ中小企業基盤整備機構が運営する経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、掛金が法人の損金になる制度です。小規模企業共済とは、掛金を払う主体も目的も異なります。
なお、2024年(令和6年)10月1日以後に解約した契約については、解約日から2年を経過する日までに再加入して支払う掛金は損金に算入できません。解約と再加入を繰り返す使い方が制限されているため、あわせて確認しておきます。
受け取るときの税金の違い
入口だけでなく出口も比べておく必要があります。ここでの扱いが、最終的に手元に残る金額を左右します。
共済金は退職所得または雑所得
共済金を一括で受け取る場合は退職所得として扱われます。退職所得控除を差し引いた残額の2分の1が課税対象となり、他の所得と分けて計算されます。
分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得です。一括と分割のどちらが有利かは、他の所得や年金の受給状況によって変わります。受け取り方を選べる制度であるため、請求の前に試算しておく価値があります。
法人保険の解約返戻金は会社の益金
解約返戻金は会社に入り、資産計上額との差額が益金になります。個人が受け取るわけではないため、この時点では個人に課税は生じません。
そこから役員退職金として支給された段階で、個人側では退職所得として課税されます。会社側で益金と損金を対応させ、個人側で退職所得の計算をするという二段階の構造です。
受け取る年度が重ならないようにする
見落とされやすいのが、共済金と役員退職金を同じ年に受け取るケースです。どちらも退職所得として扱われるため、合算して計算されます。
退職所得控除は勤続年数に応じた金額が1回分しか使えないため、同じ年に受け取ると控除の枠を分け合う形になり、税負担が増える可能性があります。受け取る時期をずらすことで負担を抑えられる場合があるため、勇退の計画を立てる段階で確認しておきます。
| 受け取る時期の設計まで含めてご相談いただけます 共済金と役員退職金をいつ受け取るかで、手取りの金額は変わります。勇退の予定時期をお聞かせいただければ、順序を整理してお伝えします。 |
加入前に確認しておく点
どちらの制度も、始めてからの変更には制約があります。事前に確認しておく項目を挙げます。
加入資格を満たしているか
共済では、従業員数の基準を業種ごとに判定します。事業が拡大して基準を超えた場合でも、加入後であれば継続できますが、加入の時点では要件を満たしている必要があります。
加入資格がなかったと後から判明すると、契約が取り消され、納付した掛金は返還されます。すでに所得控除を受けていた場合は修正申告が必要になるため、役員登記の状況を含めて事前に確認します。
掛金を減額したときの扱い
共済の掛金は減額できますが、減額した部分については、それ以降の運用がされない扱いになります。増額を前提に高い金額から始めるより、続けられる水準で始めるほうが結果的に有利です。
業績の良い年に上限まで引き上げ、悪化したら下げるという運用は、効率を下げる可能性があるため、基本の金額を決めてから調整する考え方をとります。
払い続けられる金額かどうか
共済も法人保険も、途中でやめると不利になる仕組みです。共済は20年未満の任意解約で元本割れし、法人保険はピーク前の解約で元本を割ります。
業績が落ちた年でも払い続けられる金額に抑えるという原則は、どちらにも当てはまります。上限まで使い切ることを目標にせず、無理のない水準から始めます。
会社と個人のどちらに残したいか
最後に確認したいのが、資金を最終的にどこへ残したいかという点です。個人の老後資金として確保したいのか、会社の資金として使える形にしておきたいのかで、優先すべき制度は変わります。
後継者に会社を引き継ぐ予定があるなら、会社に資金を残す形は次の代の負担にもなります。引退後の生活設計と事業承継の計画を、同じテーブルで考えることが判断の前提になります。
まとめ
小規模企業共済と法人保険は、契約するのが個人か法人かという点で分かれます。共済は個人の所得控除、法人保険は会社の損金として働くため、税負担がどちらに偏っているかが判断の起点になります。
加入資格を満たしているのであれば、上限が年84万円と小さく確実性の高い共済から始め、不足する分を法人保険で補うという順序が基本形です。ただし、事業保障が不足している会社では保険を先に検討します。
出口では、共済金は個人に、法人保険の解約返戻金は会社に入ります。どちらも退職所得の計算に関わるため、受け取る時期が重ならないよう、勇退の計画とあわせて設計します。
必要な金額も、払える金額も、会社ごとに異なります。決算書と確定申告書を並べて確認すれば、どちらにどれだけ配分すべきかは具体的に見えてきます。
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