法人の医療保険を福利厚生にする方法|全員加入の要件と経理処理を解説
従業員が入院したときに給付金が出る医療保険を、会社が保険料を負担する形で用意する。人材の確保や定着を課題に感じている中小企業で、導入の検討が増えている取り組みです。
ただし、法人が契約した医療保険の保険料が、そのまま福利厚生費として扱われるわけではありません。対象者の範囲や社内規程の整備といった要件を満たしていないと、役員や従業員への給与として扱われ、所得税の対象になります。
この記事では、福利厚生費として認められるための要件、保険料と給付金の経理処理、退職時の扱い、導入の進め方までを順に整理します。
| 確認したいポイント | 結論 | 詳細 |
|---|---|---|
| 福利厚生費にできる条件は? | 原則として全員を対象にすること | 役員や特定の従業員だけを対象にすると給与として扱われます。福利厚生規程の整備もあわせて必要です。 |
| 保険料は損金にできる? | 契約形態と解約返戻率で決まる | 給付金の受取人が法人か被保険者かで処理が分かれ、解約返戻金のある契約は一部を資産に計上します。 |
| 給付金を受け取ったら? | 法人が受け取ると益金になる | 受け取った給付金は雑収入になります。見舞金規程に基づいて支給すれば、損金と対応させられます。 |
| 退職するときはどうする? | 名義変更で個人に引き継げる | 短期払いで払込を終えた契約を退職時に個人へ移す設計があります。評価額に応じた課税に注意します。 |
この記事でわかること
- 法人契約の医療保険を福利厚生として導入する場合の、会社と従業員それぞれの利点
- 福利厚生費として認められるための対象者の範囲と、規程で定めておく項目
- 契約形態別の保険料の経理処理と、資産計上が必要になる場合の考え方
- 給付金を法人が受け取ったときの処理と、見舞金として支給する場合の注意点
- 退職時に契約を個人へ引き継ぐ設計と、導入前に確認しておきたい点
| 自社の規模に合う福利厚生の設計をご提案します 対象者の範囲、保障内容、保険料の予算によって、選べる商品は変わります。従業員数と想定している予算をお聞かせいただければ、具体的な形をお示しします。 |
法人契約の医療保険を福利厚生にする意味
まず、この仕組みが何を解決するのかを整理します。制度としての位置づけを理解しておくと、規程をつくるときの判断がしやすくなります。
法定福利と法定外福利の違い
会社が負担する福利厚生には、健康保険や厚生年金保険のように法律で義務づけられている法定福利と、会社が任意で用意する法定外福利があります。
住宅手当、慶弔見舞金、健康診断の費用補助などが法定外福利にあたります。法人契約の医療保険を全員向けに用意する取り組みも、この法定外福利に位置づけられます。義務ではないため、内容は会社が決められます。
会社側から見た利点
求人の場面で示せる条件が増える点が、まず挙げられます。給与水準で大手と競うことが難しい中小企業にとって、保障の手厚さは差をつけやすい部分です。
従業員が入院したときの見舞金を、その都度の判断ではなく制度として支給できるようになる点も実務上の利点です。基準を規程で定めておけば、支給の可否や金額で迷わずに済みます。
要件を満たせば、保険料を福利厚生費として損金に算入できます。同じ金額を給与として上乗せする場合と比べ、会社と従業員の双方で負担の出方が変わります。
給与を上げる場合との違い
同じ待遇改善でも、給与を上乗せする方法とは負担の出方が異なります。給与として支給した場合、その金額は所得税と住民税の対象になり、社会保険料の計算の基礎にも含まれます。
会社と本人が保険料を折半で負担するため、支給額の全部が従業員の手取りになるわけではなく、会社側にも社会保険料の負担が発生します。月1万円の昇給が、双方にとって1万円分の効果にはならない構造です。
一方、福利厚生として認められる範囲の保険料は、原則として報酬には含まれません。ただし現物給与に該当する場合は扱いが変わるため、設計の段階で確認しておきます。
従業員側から見た利点
保険料の負担なしに医療保障を持てる点が最も大きな利点です。個人で加入すれば毎月数千円かかる保障が、会社の制度として用意されます。
団体で加入する形をとる場合、告知の項目が簡略化されるものもあります。健康状態によって個人では加入しにくい人でも、保障を持てる場合があるという点は、個人契約との違いです。
福利厚生費として認められるための要件
ここが導入の可否を分ける部分です。要件を満たさない場合、保険料は給与として扱われ、源泉徴収の対象になります。
原則として全員を対象にする
福利厚生として扱うための基本は、特定の人だけを優遇する制度になっていないことです。原則として、役員と従業員の全員を加入の対象とします。
一部の人だけが恩恵を受ける形になっていると、制度ではなく個人への利益供与とみなされます。対象から外れる人が出る設計にする場合は、その基準に合理性があるかどうかが問われます。
役員や特定の従業員だけでは給与になる
法人税基本通達では、給付金の受取人が被保険者やその遺族である場合、支払った保険料は期間の経過に応じて損金に算入するとされています。
ただし、役員または部課長その他特定の使用人のみを被保険者としている場合には、その保険料はその人に対する給与として扱われます。社長だけ、役員だけという設計にすると、福利厚生費にはなりません。
同族会社で、役員と一部の従業員が親族で占められている場合も、実質的に特定の人向けの制度と見られる可能性があります。従業員構成もあわせて確認します。
福利厚生規程を整備する
制度として運用していることを示す書面が規程です。加入の対象者、保障の内容、給付金を受け取ったときの取り扱い、見舞金の支給基準、退職時の扱いを定めます。
規程がないまま保険料を福利厚生費として処理していると、税務調査の場面で制度の存在を説明する材料がありません。契約より先に規程を整えるという順序にすると、後から書類を揃える手間が減ります。
加入基準を設ける場合の考え方
入社直後の従業員や、勤務時間が短いパートタイマーを対象から外したい場合は、勤続年数や労働時間による基準を規程に定めます。
基準を設けること自体は問題ありませんが、その基準に該当する人が全員対象になっていることが必要です。同じ条件の人のうち一部だけを加入させる運用は、制度としての合理性を欠きます。
| 対象範囲と規程の内容から、あわせて確認できます 誰を対象にするか、どこまで保障するかによって、税務上の扱いも保険料も変わります。規程の整備とセットで、無理のない設計をご提案します。 |
保険料の経理処理
処理の分かれ目は、給付金の受取人を誰にするかと、その契約に解約返戻金があるかどうかの2点です。
給付金の受取人が法人の場合
会社が給付金を受け取り、そこから見舞金などを支給する設計です。支払った保険料は、原則として期間の経過に応じて損金に算入します。
この形では、給付金が会社に入るため、従業員へ渡すには支給のルールを別に定めておく必要があります。規程で見舞金の基準を決めておかないと、会社に入ったまま従業員に渡らない制度になります。
給付金の受取人が被保険者やその遺族の場合
従業員が直接受け取る設計です。支払った保険料は期間の経過に応じて損金に算入されますが、対象が特定の人に偏っていると給与になる点は前述のとおりです。
従業員にとっては、給付金が直接手元に入るため分かりやすい形です。身体の傷害に基因して支払われる給付金は、受け取った個人に所得税がかからないのが原則です。
解約返戻金がある契約は資産計上が必要
医療保険は第三分野保険にあたり、2019年(令和元年)7月8日以後の契約については、定期保険と同じく最高解約返戻率に応じた処理が適用されます。
最高解約返戻率が50%を超える契約では、保険料の一部を資産として計上します。掛け捨てで解約返戻金がないタイプであれば資産計上は生じませんが、貯蓄性のある設計にすると処理が変わります。
参照:国税庁「法人税基本通達 第3節 保険料等」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
がん保険や就業不能保険と組み合わせる場合
医療保険だけでなく、がん保険や団体長期障害所得補償保険を組み合わせる会社もあります。いずれも第三分野保険として、医療保険と同じ考え方で処理されます。
年間保険料30万円以下の判定は被保険者ごとに、複数の契約の合計額で行います。医療保険とがん保険を別々に契約している場合、それぞれは30万円以下でも、合計で超えていれば扱いが変わります。契約を追加するときは合計額を確認します。
短期払いと年間保険料30万円以下の扱い
保険期間が終身の第三分野保険については、保険期間の開始の日から被保険者が116歳に達する日までを計算上の保険期間とします。10年払いのような短期払いにすると、支払った保険料の一部を資産計上することになります。
ただし、保険期間を通じて解約返戻金がない契約で、一の被保険者についての年間保険料が30万円以下であれば、支払った保険料を支払った事業年度の損金に算入できます。この判定は被保険者ごとに、複数契約の合計で行います。
福利厚生として全員に用意する医療保険は、1人あたりの保険料が小さく収まることが多いため、この扱いに該当する場合があります。契約前に、商品の設計と保険料の水準を確認します。
給付金を受け取ったときの処理
制度の運用で迷いやすいのが、給付金が会社に入ったあとの扱いです。ここを規程で決めておくかどうかで、運用のしやすさが変わります。
法人が受け取った場合は益金になる
会社が給付金を受け取ったときは、雑収入として益金に計上します。入院給付金30万円を受け取った場合、借方に現預金30万円、貸方に雑収入30万円と処理します。
資産計上している契約であれば、その残高を取り崩して差額を計上します。受け取った金額をそのまま従業員に渡さない限り、会社の利益として課税の対象になるという点を押さえておきます。
見舞金として従業員に支給する
受け取った給付金を原資に、規程に基づいて見舞金を支給します。支給した金額は福利厚生費として損金に算入され、益金と対応します。
従業員が受け取る見舞金は、その金額が社会通念上相当と認められる範囲であれば、所得税は課されません。金額が過大になると給与として扱われるため、一般的な水準に収めることが前提になります。
参照:国税庁「所得税基本通達」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/01.htm
見舞金規程で定めておく項目
支給の対象となる事由、入院日数などの条件、勤続年数や役職による金額の区分、申請の方法と必要書類、支給の時期を定めます。
金額は、全員に同じ基準が適用される形にしておくことが要点です。役職によって差を設ける場合も、その差が常識的な範囲に収まっているかを確認します。個別の判断で金額を決める運用にすると、制度としての説明が難しくなります。
| 見舞金規程と保険の設計は、あわせて組み立てます 給付金の受取人をどちらにするか、見舞金をいくらに設定するかで、運用のしやすさが変わります。規程の例をお示ししながらご説明します。 |
退職するときの取り扱い
従業員が退職したとき、契約をどうするかを決めておく必要があります。放置すると、退職者の分の保険料を会社が払い続けることになります。
退職時に解約するか、個人へ引き継ぐか
選択肢は2つです。契約を解約して終わりにするか、契約者を退職する本人に変更して、その後は個人が保険料を払って継続するかです。
どちらにするかを規程で定め、入社時や加入時に従業員へ伝えておくと、退職の場面で説明に困りません。会社ごとに方針は異なるため、決めておくこと自体が重要になります。
短期払いで払込を終える設計
在職中に10年払いなどで保険料の払込を終え、退職時に契約を個人へ移すという設計があります。移した時点で払込は終わっているため、個人はその後の負担なしに一生涯の保障を持てます。
退職金の一部に代わる制度として位置づける会社もあります。ただし、短期払いにすると1人あたりの保険料は高くなるため、対象者の人数と予算の見合いで判断します。
名義変更のときの評価と課税
契約者を個人に変更する場合、その保険契約に関する権利の評価額が課税の基準になります。原則は、変更の時点で解約したとした場合に支払われる解約返戻金の額です。
解約返戻金がない医療保険であれば評価額は低くなりますが、資産計上のルールが適用される契約については、2021年の通達改正で扱いが変わっています。名義変更を前提とした設計を検討する場合は、契約ごとに税理士へ確認します。
導入の進め方
検討から運用開始までの流れを整理します。順序を守ると、後から規程を作り直す手間がなくなります。
対象範囲と保障内容を決める
全員を対象にするのか、勤続年数や労働時間で基準を設けるのかを先に決めます。あわせて、入院日額、手術給付金、通院保障の有無といった保障の中身を検討します。
保障を厚くするほど保険料は上がるため、人数と予算から逆算するという進め方が現実的です。まず全員に基本的な保障を用意し、必要に応じて上乗せする形も選べます。
規程を整備して社内に説明する
福利厚生規程と見舞金規程を作成し、加入の対象、保障内容、給付金と見舞金の扱い、退職時の取り扱いを明記します。作成した規程は従業員が確認できる状態にしておきます。
制度として運用するには、従業員が内容を知っていることが前提です。説明会や書面で周知しておかないと、せっかくの制度が認知されず、採用や定着の効果につながりません。
保険料の予算を決めてから商品を選ぶ
年間の保険料総額は、従業員が増えれば自動的に増えていきます。人数が変動しても負担できる水準に収まっているかを、あらかじめ確認しておきます。
業績が落ちた年に制度を打ち切ると、従業員の受け止めは良くありません。続けられる水準で始めることが、制度としての価値を保つ条件になります。
導入後に見直すタイミング
従業員数が大きく増減したとき、平均年齢が上がって保険料が変わるとき、公的な医療保障の制度が変わったときが見直しの機会です。
加入者の一覧と規程の内容が一致しているかを、年に一度は確認すると、加入漏れや退職者の契約が残ったままという状態を防げます。決算のタイミングに合わせて点検すると習慣化しやすくなります。
| 人数と予算から、保険料の総額を試算できます 従業員数と年齢構成が分かれば、必要な保険料の水準は概算できます。シミュレーションで、無理なく続けられる範囲をご確認ください。 |
導入前に確認したい注意点
運用の場面で問題になりやすい点を挙げます。いずれも設計の段階で対応できるものです。
給与として扱われるリスク
最も注意すべきは、対象者が偏っていて福利厚生費として認められないケースです。役員だけ、あるいは経営者の親族だけが加入している状態は、制度として説明できません。
加入者の一覧と規程の基準が一致しているかを、定期的に確認するようにします。新入社員が加入していない、退職者の契約が残っているといったずれは、運用のなかで生じやすい部分です。
従業員の増減への対応
採用のたびに加入手続きが必要になり、退職のたびに解約か名義変更の判断が求められます。人数が多いほど事務の負担は増えます。
団体で加入する形の商品であれば、手続きをまとめて行える場合があります。導入時に、加入と脱退の手続きがどの程度の手間になるかを確認しておくと、運用開始後の負担を見積もれます。
保険料の負担が続くこと
福利厚生は、一度始めると簡単には縮小できません。保険料は毎年発生し、人数が増えれば総額も増えます。
業績が良い年の感覚で保障を厚くすると、後から見直しを迫られます。最初は基本的な保障から始め、余力ができてから上乗せするほうが、制度としては続けやすくなります。
他の制度との重複
すでに慶弔見舞金の規程がある場合、医療保険による見舞金と支給事由が重なることがあります。同じ入院に対して二重に支給される形になっていないかを確認します。
健康保険からは傷病手当金が支給されるため、公的な給付でどこまで賄えるのかを整理したうえで、上乗せする部分を決めると、過剰な保障を避けられます。
まとめ
法人契約の医療保険を福利厚生として導入する場合、保険料を福利厚生費として扱うには、原則として全員を対象にすることと、規程を整備しておくことが前提になります。役員や特定の従業員だけを対象にすると、給与として扱われます。
経理処理は、給付金の受取人を誰にするか、解約返戻金があるかどうかで分かれます。掛け捨てで年間保険料が30万円以下に収まる契約であれば、支払った事業年度の損金にできる場合があります。
会社が給付金を受け取る設計にする場合は、見舞金規程を必ず用意します。規程がないと、給付金が会社に入ったまま従業員へ渡らず、制度として機能しません。
従業員の人数と年齢構成、予算の水準によって、選べる商品も設計も変わります。続けられる範囲で始めることが、制度としての価値を保つ条件になります。
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