逓増定期保険の名義変更は今でも使える?税制改正後のルールと正しい活用法を解説
「逓増定期保険の名義変更プランは税制改正で使えなくなったのか」「改正前に契約した逓増定期保険はどうすればよいのか」――かつて法人保険の活用方法として広く知られていた逓増定期保険の名義変更プランは、2021年の税務上の取扱いの見直しによって大きく制限されました。
結論として、低い解約返戻金を利用して法人から個人へ保険契約を移転する、いわゆる節税目的の名義変更プランは、現在では従来と同じ効果を期待できません。
2021年7月1日以後、法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける一定の保険契約については、名義変更時の解約返戻金が法人の資産計上額の70%未満である場合、解約返戻金ではなく資産計上額を基準に評価する取扱いが導入されたためです。
ただし、逓増定期保険の名義変更自体が禁止されたわけではありません。役員退職金の現物支給、事業保障から個人保障への移行、有償譲渡など、合理的な目的に基づく契約者変更は現在も可能です。
また、改正後の評価方法はすべての逓増定期保険へ一律に適用されるものではありません。契約日、保険種類、法人側の保険料処理、名義変更日、解約返戻金、資産計上額などを確認し、個別に判断する必要があります。
この記事では、逓増定期保険の名義変更プランの仕組み、2021年の見直しで変わった評価方法、契約日ごとの確認ポイント、現在でも検討できる活用方法、法人側の仕訳と個人側の税金について解説します。
| 確認したいポイント | 結論 | 詳細 |
|---|---|---|
| 名義変更プランとは何か? | 法人契約の逓増定期保険を個人へ移転する方法 | 従来は、解約返戻金が低い時期に名義変更し、その後個人で解約する方法が利用されていました。 |
| なぜ節税になると言われていた? | 低い解約返戻金を基準に個人へ移転できたため | 法人側の損金算入、低い評価額での移転、個人側の一時所得課税が組み合わされていました。 |
| 2021年の改正で何が変わった? | 一定の契約では、70%未満なら資産計上額で評価する | 解約返戻金が低い時期でも、法人の資産計上額を基準に個人側の経済的利益を評価します。 |
| 改正前に契約した保険はどうなる? | 契約日だけでなく、適用通達と契約変更歴を確認する | 2019年の法人税基本通達改正前の契約は、9-3-5の2の対象外となる可能性があります。 |
| 現在でも名義変更は使える? | 退職金の現物支給や保障移管などに活用できる | 節税だけを目的とせず、退職や保障の必要性に基づく合理的な設計が重要です。 |
| 名義変更時の経理処理は? | 帳簿価額を取り崩し、評価額との差額を損益処理する | 退職金として支給する場合は、評価額を役員退職慰労金などで計上します。 |
| 個人側にかかる税金は? | 退職金なら退職所得、在職中の無償譲渡なら給与所得になる可能性がある | 名義変更後に個人が解約した場合は、一時所得などの課税関係も確認します。 |
| 払済保険への変更で評価を下げられる? | 一定の払済契約には特別な評価方法が適用される | 名義変更直前に払済保険へ変更するだけで評価額を下げられるとは限りません。 |
この記事でわかること
- 逓増定期保険の名義変更プランが利用されていた仕組み
- 2021年7月1日以後に適用される70%判定の考え方
- 改正後の評価方法が適用される保険契約の範囲
- 改正前から保有している逓増定期保険の確認ポイント
- 退職金として名義変更する場合の法人側の仕訳
- 名義変更を受けた個人に生じる退職所得・給与所得・一時所得
- 払済保険への変更や低額譲渡に関する注意点
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逓増定期保険の名義変更では、契約日、資産計上額、解約返戻金、退職金の適正額などを総合的に確認する必要があります。名義変更や解約のタイミングを含む出口戦略を、専門スタッフが一緒に検討します。
逓増定期保険の名義変更プランとは
逓増定期保険とは、保険期間の経過に伴って死亡保険金額が増加する定期保険です。
経営者に万一のことがあった場合の事業保障、借入金対策、役員退職金の準備などを目的として、法人が契約者、役員を被保険者として加入することがあります。
商品の中には、契約当初の解約返戻率を低く抑え、その後一定の時期に解約返戻率が上昇するものがありました。
この解約返戻金の推移を利用して行われていたのが、逓増定期保険の名義変更プランです。
従来の名義変更プランの流れ
- 法人が契約者となって逓増定期保険へ加入する
- 法人が保険料を支払い、一部を損金、一部を資産として処理する
- 解約返戻金が低い時期に、契約者を法人から役員個人へ変更する
- 個人が法人へ譲渡代金を支払う、または退職金・給与として契約を受け取る
- 解約返戻率が上昇した後に、個人が保険を解約する
- 個人が解約返戻金を受け取る
従来は、法人から個人へ移転する保険契約の評価額について、名義変更時点の解約返戻金相当額を基準とするのが原則でした。
そのため、解約返戻金が低い期間に名義変更すれば、将来の解約返戻金が大きく増える可能性のある契約を、比較的低い評価額で個人へ移転できる場合がありました。
なぜ名義変更プランは節税になると言われていたのか
逓増定期保険の名義変更プランが節税手法として紹介されていた背景には、主に3つの要素がありました。
法人が保険料の一部を損金算入できた
法人が支払う保険料の一部を損金算入できれば、その事業年度の課税所得を圧縮できます。
ただし、保険料の損金算入は、税金が永久に免除されることを意味するものではありません。将来の解約返戻金や保険金の受取時に益金が発生するため、基本的には課税時期を将来へ移す効果です。
名義変更時の評価額が低かった
従来の原則的な評価方法では、法人が役員・従業員へ保険契約に関する権利を支給する場合、その時点の解約返戻金相当額を基準に評価していました。
解約返戻金が低い時期に名義変更すれば、個人が受け取る経済的利益や、個人が法人へ支払う譲渡代金も低く抑えられる場合がありました。
個人の解約益が一時所得になる場合があった
名義変更後に個人が保険契約を解約し、解約返戻金を一時金で受け取った場合、契約関係によっては一時所得として課税されます。
一時所得には年間最高50万円の特別控除があり、特別控除後の金額の2分の1が課税対象になります。
そのため、給与所得として受け取る場合と比べて、個人側の所得税負担を抑えられるケースがありました。
従来の仕組みを単純化した例
次のような契約を想定します。
- 法人が支払った保険料の累計額:2,000万円
- 名義変更時の解約返戻金:200万円
- 名義変更後に上昇した解約返戻金:1,600万円
従来の評価方法によって200万円で個人へ移転できた場合、個人が後に1,600万円の解約返戻金を受け取ることで、大きな差額が生じます。
ただし、個人側の所得計算で差し引ける金額は、実際の取得価額、名義変更時に課税された金額、名義変更後に個人が支払った保険料などによって判断されます。
法人が過去に支払った保険料の全額を、当然に個人の一時所得の計算から差し引けるわけではありません。
2021年の見直しで何が変わったのか
2021年に所得税基本通達36-37が見直され、法人から役員・従業員へ一定の保険契約に関する権利を支給するときの評価方法が変更されました。
改正後は、法人税基本通達9-3-5の2の取扱いを受ける保険契約について、支給時の解約返戻金が支給時資産計上額の70%未満である場合、支給時資産計上額を基準として評価します。
70%判定の計算方法
基本的な計算式は次のとおりです。
名義変更時の解約返戻金相当額÷名義変更時の資産計上額
この割合が70%未満であり、対象となる保険契約であれば、名義変更時の評価額は解約返戻金相当額ではなく資産計上額になります。
70%未満になる例
- 法人の資産計上額:800万円
- 名義変更時の解約返戻金:200万円
割合は次のとおりです。
200万円÷800万円=25%
25%は70%未満です。
この契約が法人税基本通達9-3-5の2の適用を受けるものであれば、評価額は解約返戻金200万円ではなく、資産計上額800万円となります。
個人が800万円相当の保険契約を退職金として受け取った場合は、800万円が退職金の一部として扱われます。
在職中に無償で受け取った場合は、800万円が給与所得として課税される可能性があります。
70%以上になる例
- 法人の資産計上額:800万円
- 名義変更時の解約返戻金:700万円
割合は次のとおりです。
700万円÷800万円=87.5%
70%以上であるため、原則的な解約返戻金相当額700万円を基準に評価します。
すべての逓増定期保険が対象ではない
70%判定は、逓増定期保険という商品名だけで適用されるものではありません。
主な確認項目は次のとおりです。
- 法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける契約か
- 保険期間が3年以上の定期保険等に該当するか
- 最高解約返戻率が50%を超えるか
- 法人が保険料の一部を資産計上しているか
- 名義変更日が2021年7月1日以後か
- 名義変更時の解約返戻金と資産計上額はいくらか
単に「2019年7月8日以後に契約した逓増定期保険だから70%判定の対象」と判断するのではなく、法人側で実際に適用されている通達と経理処理を確認してください。
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逓増定期保険の名義変更では、契約日、資産計上額、解約返戻金、退職金の適正額などを総合的に確認する必要があります。名義変更や解約のタイミングを含む出口戦略を、専門スタッフが一緒に検討します。
契約日別に確認したい適用ルール
逓増定期保険の名義変更に適用される評価方法を判断するときは、保険の契約日と名義変更日の両方を確認します。
2019年7月8日より前の契約
2019年の法人税基本通達改正前に契約した保険は、原則として契約時の保険料処理が継続されます。
法人税基本通達9-3-5の2の適用を受けていない契約であれば、2021年に設けられた70%判定の対象外となり、原則的な解約返戻金相当額による評価を検討することになります。
ただし、契約日だけで判断できない場合があります。次のような変更を行っている場合は、適用関係を個別に確認してください。
- 保険金額の増額
- 保険期間の延長
- 特約の中途付加
- 契約転換
- 払済保険への変更
- 契約内容の大幅な変更
変更内容によっては、元の契約と同じ取扱いを継続できるか確認が必要です。
2019年7月8日以後の契約
2019年7月8日以後に契約した一定の定期保険・第三分野保険については、最高解約返戻率に応じた資産計上ルールが適用されます。
その契約が法人税基本通達9-3-5の2の適用を受け、2021年7月1日以後に役員・従業員へ支給される場合は、70%判定を確認します。
2021年7月1日より前の名義変更
2021年の改正後の所得税基本通達は、原則として2021年7月1日以後に行われる保険契約に関する権利の支給に適用されます。
同日前に完了した名義変更については、原則として従前の取扱いを確認することになります。
ただし、名義変更日を形式的に早めただけで、実際の権利移転や契約手続きが完了していない場合は、どの時点で支給が行われたかが問題になる可能性があります。
契約日と名義変更日の整理表
| 契約・名義変更の状況 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 2019年改正前の契約 | 9-3-5の2の適用対象か、契約変更歴がないかを確認します。 |
| 2019年7月8日以後の契約 | 最高解約返戻率に基づく資産計上額を確認します。 |
| 2021年7月1日より前の名義変更 | 原則として従前の評価方法の適用関係を確認します。 |
| 2021年7月1日以後の名義変更 | 対象契約について、解約返戻金と資産計上額の70%判定を行います。 |
現在でも検討できる逓増定期保険の名義変更
2021年の見直しによって、低い解約返戻金を利用した節税目的の名義変更は制限されました。
一方、法人から個人への契約者変更そのものは禁止されていません。合理的な目的と適正な評価に基づいて行う名義変更は、現在も検討できます。
役員退職金として現物支給する
役員の退職時に、逓増定期保険を退職金の一部として現物支給する方法です。
法人は保険契約の適正な評価額を役員退職慰労金として計上し、保険積立金や前払保険料を取り崩します。
個人側では、実際の退職に基因して支給されたものであれば、退職所得として扱われる可能性があります。
ただし、現金で支給する退職金や他の現物支給を含め、退職金の総額が不相当に高額でないことが必要です。
事業保障から個人保障へ移行する
在職中は法人契約として、経営者の死亡による売上減少、借入金返済、事業承継などに備えます。
退職後は契約者を個人へ変更し、個人の死亡保障として継続する方法があります。
この場合も、法人から個人へ経済的価値が移転するため、適正な評価と課税処理が必要です。
個人が適正な価額で買い取る
役員や従業員が法人へ適正な譲渡代金を支払い、保険契約を有償で引き継ぐ方法です。
個人が適正な評価額を支払っていれば、名義変更時に無償の経済的利益を受けたことにはなりにくいと考えられます。
ただし、評価額より著しく低い金額で譲渡すると、その差額が給与や役員賞与として扱われる可能性があります。
既存契約の出口を整理する
改正前から保有している契約についても、名義変更だけが出口ではありません。
主な選択肢には、次のものがあります。
- 法人のまま保障を継続する
- 解約返戻金のピーク付近で法人が解約する
- 役員退職金の支給時期に合わせて解約する
- 事業承継資金として保険金を活用する
- 払済保険へ変更する
- 適正な価額で個人へ譲渡する
- 退職金として現物支給する
解約返戻率だけでなく、必要な保障額、法人の資金繰り、退職予定時期、解約時に発生する益金などを踏まえて判断しましょう。
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逓増定期保険の名義変更では、契約日、資産計上額、解約返戻金、退職金の適正額などを総合的に確認する必要があります。名義変更や解約のタイミングを含む出口戦略を、専門スタッフが一緒に検討します。
名義変更時の経理処理と仕訳例
逓増定期保険を法人から個人へ名義変更する場合、法人側では、帳簿に残っている保険積立金や前払保険料を取り崩します。
退職金として現物支給する場合は保険契約の評価額を退職金として計上し、帳簿価額との差額を保険契約譲渡損益などで処理します。
評価額が帳簿価額を下回る場合
次の条件で、役員退職金として名義変更するとします。
- 法人の資産計上額:800万円
- 名義変更時の解約返戻金:700万円
- 70%判定の割合:87.5%
- 税務上の評価額:700万円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員退職慰労金 | 7,000,000円 | 前払保険料 | 8,000,000円 |
| 保険契約譲渡損 | 1,000,000円 |
評価額700万円を退職金として計上し、帳簿価額800万円との差額100万円を譲渡損として処理します。
70%判定により資産計上額で評価する場合
- 法人の資産計上額:800万円
- 名義変更時の解約返戻金:200万円
- 70%判定の割合:25%
- 税務上の評価額:800万円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員退職慰労金 | 8,000,000円 | 前払保険料 | 8,000,000円 |
評価額と帳簿価額が同額であるため、保険契約の譲渡損益は発生しません。
評価額が帳簿価額を上回る場合
- 法人の帳簿価額:600万円
- 税務上の評価額:800万円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員退職慰労金 | 8,000,000円 | 前払保険料 | 6,000,000円 |
| 保険契約譲渡益 | 2,000,000円 |
差額200万円は、法人側の益金になります。
個人が有償で買い取る場合
- 法人の帳簿価額:800万円
- 適正な譲渡価額:700万円
- 個人から法人へ支払われる金額:700万円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 7,000,000円 | 前払保険料 | 8,000,000円 |
| 保険契約譲渡損 | 1,000,000円 |
個人から実際に代金を受け取り、法人の預金口座への入金記録を残してください。
使用する勘定科目は法人の会計方針によって異なります。雑損失・雑収入ではなく、保険契約譲渡損・保険契約譲渡益などを用いる場合もあります。
名義変更を受けた個人側に発生する税金
個人側の課税関係は、保険契約を退職金として受け取ったのか、在職中に無償で受け取ったのか、適正な価額で購入したのかによって異なります。
退職金として受け取った場合
実際の退職に基因して保険契約を現物支給された場合、保険契約の評価額は退職所得として扱われる可能性があります。
一般的な退職所得の計算式は次のとおりです。
(退職金の収入金額-退職所得控除額)×2分の1
退職所得控除額は、一般に勤続年数に応じて次のように計算します。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数。最低80万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
ただし、短期勤続の役員等に対する退職金では、2分の1課税が適用されない場合があります。
在職中に無償で受け取った場合
退職の事実がない状態で法人から保険契約を無償で受け取った場合、その評価額は給与所得として課税される可能性があります。
法人側では源泉徴収が必要になる場合があり、役員への支給であれば、法人税法上の役員給与の損金算入要件も問題になります。
定期同額給与や事前確定届出給与などの要件を満たさない場合、法人側で損金算入が認められない可能性があります。
適正な価額で買い取った場合
個人が税務上適正な評価額を法人へ支払って契約を取得した場合、名義変更時に無償の経済的利益を受けたとは考えにくく、通常は給与課税が生じにくいと考えられます。
ただし、実際の支払額が評価額を下回れば、その差額が給与などとして扱われる可能性があります。
名義変更後に個人が解約した場合
個人が解約返戻金を一時金で受け取った場合は、契約関係に応じて一時所得になる可能性があります。
一般的な一時所得の計算式は次のとおりです。
総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額50万円
算出した一時所得の2分の1を、他の所得と合算して所得税を計算します。
収入を得るために支出した金額へ何を含められるかは、名義変更の方法によって異なります。
主に確認する金額は次のとおりです。
- 個人が法人へ支払った譲渡代金
- 名義変更時に給与所得として課税された評価額
- 名義変更時に退職所得として課税された評価額
- 名義変更後に個人が支払った保険料
法人が名義変更前に支払った保険料の全額を、当然に個人の支出額へ含められるとは限りません。
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逓増定期保険の名義変更では、契約日、資産計上額、解約返戻金、退職金の適正額などを総合的に確認する必要があります。名義変更や解約のタイミングを含む出口戦略を、専門スタッフが一緒に検討します。
払済保険への変更で評価額を下げられる?
名義変更前に逓増定期保険を払済保険へ変更し、解約返戻金や契約内容を変える方法が検討されることがあります。
しかし、払済保険へ変更すれば、必ず低い解約返戻金で評価できるわけではありません。
所得税基本通達36-37では、一定の払済保険について特別な評価方法が設けられています。
元の保険契約や法人側の資産計上額などを踏まえて評価する場合があるため、名義変更直前の払済変更だけで評価額を引き下げる方法は、税務上認められない可能性があります。
払済変更前に確認すること
- 払済変更後の保険種類
- 元の保険へ復旧できる契約か
- 払済変更前の資産計上額
- 払済変更後の解約返戻金
- 名義変更時の評価方法
- 法人側の保険料処理
- 保障額がどの程度減少するか
税務上の評価だけを目的として払済保険へ変更すると、必要な事業保障まで失う可能性があります。
保障内容と税務の両面を確認したうえで判断してください。
名義変更で注意したいポイント
退職の実態を明確にする
保険契約を退職金として支給し、個人側で退職所得の適用を受けるには、実際の退職に基因する支給であることが重要です。
代表取締役を退任しても、実質的に従来と同じ権限で経営を続けている場合などは、税務上の退職と認められない可能性があります。
次の資料を整備しましょう。
- 株主総会議事録
- 取締役会議事録
- 退職届
- 登記事項証明書
- 退職金支給決議
- 退職後の役職・職務内容を示す資料
役員退職金の適正額を確認する
保険契約の評価額が高額であっても、その全額を役員退職金として損金算入できるとは限りません。
不相当に高額な部分は、法人側で損金不算入になる可能性があります。
適正額を判断するときは、主に次の項目を確認します。
- 役員勤続年数
- 最終月額報酬
- 役職
- 会社への功績
- 同業・同規模法人の支給水準
- 現金で支給する退職金
- 他の現物支給財産
「最終月額報酬×役員勤続年数×功績倍率」は一つの目安ですが、法令上すべての法人に保証された計算式ではありません。
低額譲渡を避ける
適正な評価額より低い価額で役員へ譲渡した場合、差額が役員給与や賞与として扱われる可能性があります。
法人側では損金不算入、個人側では給与所得課税となるリスクがあるため、評価根拠を残してください。
名義変更後の保険料負担者を変更する
個人へ名義変更した後も法人が保険料を支払い続けると、その保険料が個人への給与として扱われる可能性があります。
名義変更と同時に、保険料の振替口座やクレジットカードも個人名義へ変更しましょう。
税務上の評価資料を保存する
名義変更時には、少なくとも次の資料を保存してください。
- 保険証券
- 保険設計書
- 解約返戻金推移表
- 名義変更日時点の解約返戻金証明書
- 保険積立金・前払保険料の元帳
- 70%判定の計算書
- 保険契約譲渡契約書
- 名義変更完了通知
- 個人から法人への入金記録
改正前から保有する契約の確認チェックリスト
既存の逓増定期保険について、次の項目を確認しましょう。
- 契約年月日
- 契約者・被保険者・保険金受取人
- 保険期間
- 死亡保険金額
- 年間保険料
- 累計支払保険料
- 最高解約返戻率
- 現在の解約返戻金
- 今後の解約返戻金の推移
- 法人の資産計上残高
- 過去の損金算入額
- 適用している法人税基本通達
- 払済・減額・増額などの変更履歴
- 役員の退職予定時期
- 必要な事業保障額
- 解約時に発生する益金への対応
保険会社の解約返戻率表だけでは、正しい名義変更時の評価額を判断できません。
法人の総勘定元帳や保険料支払時の仕訳も確認し、保険会社と税理士の双方へ相談しましょう。
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逓増定期保険の名義変更では、契約日、資産計上額、解約返戻金、退職金の適正額などを総合的に確認する必要があります。名義変更や解約のタイミングを含む出口戦略を、専門スタッフが一緒に検討します。
まとめ
逓増定期保険の名義変更プランは、法人が契約した保険を、解約返戻金が低い時期に役員個人へ移転し、その後解約返戻率が上昇した時期に個人が解約する方法として利用されていました。
従来は、名義変更時点の解約返戻金相当額を基準に保険契約を評価するのが原則だったため、解約返戻金が低い時期に個人へ移転することで、個人側の取得負担や課税対象額を抑えられる場合がありました。
しかし、2021年に所得税基本通達36-37が見直されました。
2021年7月1日以後、法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける一定の保険契約について、名義変更時の解約返戻金が資産計上額の70%未満である場合は、解約返戻金ではなく資産計上額を基準に評価します。
たとえば、資産計上額800万円に対して解約返戻金が200万円であれば、割合は25%です。対象契約であれば、評価額は200万円ではなく800万円となります。
この見直しによって、低い解約返戻金を利用し、保険契約を低額で個人へ移転する節税目的の名義変更プランは、従来と同じ効果を期待しにくくなりました。
ただし、70%判定はすべての逓増定期保険へ一律に適用されるものではありません。
適用関係を判断するときは、次の内容を確認します。
- 保険の契約日
- 法人税基本通達9-3-5の2の適用を受けるか
- 法人側の保険料処理
- 名義変更日
- 名義変更時の解約返戻金
- 法人の資産計上額
- 契約変更や払済変更の履歴
2019年の法人税基本通達改正前から保有している契約は、9-3-5の2の対象外となる可能性があります。
ただし、2019年7月7日以前の契約であれば無条件に従来どおりの名義変更プランを利用できると判断するのは危険です。契約変更歴や実際の経理処理を含め、個別に確認する必要があります。
逓増定期保険の名義変更自体は禁止されていません。
現在も、次のような目的で検討できます。
- 役員退職金の現物支給
- 事業保障から個人保障への移行
- 個人への適正価額による有償譲渡
- 事業承継や相続対策を踏まえた保障の整理
退職金として名義変更する場合は、法人側で保険契約の評価額を役員退職慰労金として計上し、保険積立金や前払保険料を取り崩します。
評価額と帳簿価額との差額は、保険契約譲渡損または保険契約譲渡益などで処理します。
個人側では、実際の退職に基因して支給された場合は退職所得となる可能性があります。一方、退職の実態がない状態で無償譲渡された場合は、給与所得として課税される可能性があります。
また、名義変更後に個人が保険を解約した場合は、一時所得などの課税関係を確認する必要があります。
払済保険への変更についても、変更後の低い解約返戻金だけで評価できるとは限りません。元の契約や法人の資産計上額を基準に評価する場合があります。
逓増定期保険の出口を検討するときは、名義変更だけでなく、法人での解約、保障継続、退職金支給、事業承継などを比較することが重要です。
保険証券、解約返戻金証明書、法人の元帳、契約変更履歴を準備し、名義変更を実行する前に顧問税理士と保険会社へ確認しましょう。