保険・お金のコラム

法人保険の名義変更と経理処理を解説!2021年改正後の評価ルールと仕訳の実務

「法人で加入した保険を役員個人に名義変更する場合、経理処理はどうなるのか」「2021年の税制改正で評価方法が変わったと聞いたが、具体的に何が変わったのか」――法人保険の名義変更は、経営者や経理担当者にとって重要なテーマです。

法人保険を個人へ名義変更する場合、法人側では、帳簿に計上している保険積立金や前払保険料を取り崩し、保険契約の評価額との差額を損益として処理します。

保険契約の評価額は、原則として名義変更時点の解約返戻金相当額です。ただし、2021年に所得税基本通達の取扱いが見直され、一定の定期保険等では、解約返戻金相当額ではなく、法人の資産計上額を基準として評価するケースが設けられました。

この評価方法を誤ると、法人側の損金算入額だけでなく、名義変更を受けた役員や従業員の給与所得・退職所得にも影響し、想定外の課税につながる可能性があります。

この記事では、法人保険の名義変更における経理処理の基本、2021年改正後の評価ルール、退職金として現物支給する場合と有償で譲渡する場合の仕訳、個人側に生じる税金、医療保険を名義変更する際の注意点を解説します。

確認したいポイント 結論 詳細
名義変更時の経理処理の基本は? 帳簿上の資産を取り崩し、譲渡価額との差額を損益処理する 名義変更は保険の解約ではなく、保険契約に関する権利の譲渡として処理します。
保険の評価額はどう決まる? 原則は解約返戻金相当額だが、資産計上額で評価する場合もある 保険種類、契約日、名義変更日、解約返戻金と資産計上額の関係によって異なります。
2021年の改正で何が変わった? 一定の契約では、解約返戻金が資産計上額の70%未満なら資産計上額で評価する 低い解約返戻金で個人へ移転する名義変更スキームへの対応として見直されました。
退職金として名義変更する場合の仕訳は? 評価額を退職金として計上し、保険積立金等を取り崩す 評価額と帳簿価額との差額は、保険契約譲渡損益などとして処理します。
有償で買い取ってもらう場合は? 個人から受け取る譲渡代金と帳簿価額との差額を損益処理する 個人は法人へ適正な譲渡価額を支払い、契約者として保険を引き継ぎます。
個人側にはどのような税金がかかる? 退職金なら退職所得、在職中の無償譲渡などは給与所得になる可能性がある 有償譲渡の場合は、適正な価額で購入している限り、受領時の課税は通常生じにくいと考えられます。
医療保険の名義変更はどうなる? 解約返戻金が少ない契約でも、税務上の評価額がゼロとは限らない 払込状況、資産計上額、契約時期などを確認して評価する必要があります。
名義変更時の注意点は? 契約日・名義変更日・保険種類・帳簿価額を確認する 2019年の法人税基本通達改正と、2021年の所得税基本通達の見直しを混同しないことが重要です。

この記事でわかること

  • 法人保険の名義変更で行う経理処理の基本的な流れ
  • 名義変更時に使用する保険契約の評価額の考え方
  • 2021年の見直しで導入された、いわゆる70%判定の仕組み
  • 退職金として現物支給する場合と有償譲渡する場合の仕訳例
  • 名義変更を受けた個人側の給与所得・退職所得・一時所得の考え方
  • 終身医療保険などを法人から個人へ移す場合の注意点

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法人保険の名義変更では、保険契約の評価、法人側の経理処理、個人側の所得税、役員退職金の適正額を一体として検討する必要があります。退職金設計や出口戦略を含め、自社に合った方法を専門スタッフが一緒に考えます。

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法人保険の名義変更における経理処理の基本

法人保険の名義変更とは、法人が契約者となっている生命保険や医療保険の契約者を、役員・従業員などの個人へ変更することです。

この手続きでは、保険を解約して法人が解約返戻金を受け取るわけではありません。しかし、保険契約には解約権、解約返戻金を受け取る権利、契約内容を変更する権利などの経済的価値があります。

そのため、法人から個人への名義変更は、税務・会計上、保険契約に関する権利の譲渡として処理するのが基本です。

法人側の基本的な処理

法人側では、主に次の処理を行います。

  1. 保険契約の適正な評価額を確認する
  2. 帳簿に計上している保険積立金や前払保険料を取り崩す
  3. 個人への譲渡方法に応じて、退職金・給与・現金などを計上する
  4. 譲渡価額と帳簿価額との差額を譲渡損益として処理する

たとえば、法人が前払保険料として500万円を資産計上している保険契約を、評価額400万円で役員へ譲渡したとします。

この場合、法人は帳簿上の資産500万円を取り崩し、評価額400万円との差額100万円を譲渡損失などとして処理します。

帳簿価額と評価額は異なる

法人の帳簿に計上されている保険積立金・前払保険料などの金額と、個人へ譲渡する際の保険契約の評価額は、必ずしも一致しません。

それぞれの意味は次のとおりです。

項目 意味
帳簿価額 法人が保険料支払時に資産計上し、名義変更時点まで帳簿上に残っている金額
評価額 個人へ移転する保険契約の経済的価値として、税務上使用する金額
譲渡価額 有償譲渡で個人が法人へ実際に支払う金額、または現物支給として処理する金額

法人側の損益は、原則として、譲渡価額と帳簿価額との差額によって計算します。

個人側の給与所得や退職所得を計算するときは、保険契約の適正な評価額が基準になります。

名義変更時の保険契約の評価額はどう決まる?

法人から役員や従業員へ生命保険契約に関する権利を移転する場合、原則として、名義変更時点における解約返戻金相当額を基準に評価します。

たとえば、名義変更時点の解約返戻金が400万円であれば、原則的な評価額も400万円です。

ただし、一定の定期保険等については、2021年に所得税基本通達の取扱いが見直され、解約返戻金相当額ではなく、法人の資産計上額を評価額とする場合があります。

原則的な評価方法

原則的な評価額は、名義変更時に保険契約を解約した場合に支払われる解約返戻金相当額です。

契約者貸付がある場合や、前納保険料、配当金などがある場合は、それらを考慮して評価額を計算することがあります。

正確な金額を確認するため、保険会社に次の資料を依頼しましょう。

  • 名義変更予定日時点の解約返戻金証明書
  • 契約者貸付残高
  • 配当金積立残高
  • 前納保険料の残高
  • 保険契約の種類と契約日がわかる資料

評価額が資産計上額になる場合

一定の契約では、名義変更時の解約返戻金が法人の資産計上額と比べて著しく低い場合に、資産計上額を基準として評価します。

この取扱いが、一般に「70%判定」または「70%ルール」と呼ばれているものです。

2021年改正の70%判定ルールとは

2021年の所得税基本通達の見直しでは、法人から個人へ一定の保険契約に関する権利を移転する場合の評価方法が変更されました。

一定の条件に該当し、名義変更時の解約返戻金相当額が法人の資産計上額の70%未満である場合は、解約返戻金相当額ではなく、法人の資産計上額を基準として評価します。

70%判定の基本的な考え方

計算式は次のとおりです。

解約返戻金相当額 ÷ 法人の資産計上額

この割合が70%未満になる一定の契約では、名義変更時の評価額を法人の資産計上額とします。

たとえば、次のような契約を考えます。

  • 法人の資産計上額:500万円
  • 名義変更時の解約返戻金:300万円

この場合の割合は、次のとおりです。

300万円 ÷ 500万円=60%

60%は70%未満であるため、対象となる保険契約であれば、解約返戻金300万円ではなく、資産計上額500万円を基準に評価します。

70%以上の場合

資産計上額500万円に対して、解約返戻金が400万円の場合は次のとおりです。

400万円 ÷ 500万円=80%

80%は70%以上であるため、原則的な解約返戻金相当額400万円を評価額とします。

対象となる保険契約

70%判定は、すべての生命保険や医療保険に一律に適用されるわけではありません。

主に、法人税基本通達に基づいて保険料の一部を資産計上している一定の定期保険・第三分野保険などが対象になります。

具体的な適用可否を判断するときは、次の事項を確認する必要があります。

  • 保険の契約日
  • 保険種類
  • 最高解約返戻率
  • 法人側の保険料の経理処理
  • 名義変更日
  • 名義変更時の解約返戻金相当額
  • 名義変更時の資産計上額
  • 払済保険などへの変更歴

契約日や名義変更日だけで機械的に判断せず、適用されている法人税基本通達と実際の帳簿処理を確認することが重要です。

改正の背景

改正前は、法人が保険料の一部を資産計上しているにもかかわらず、解約返戻金が低い時期に個人へ名義変更し、低い評価額で保険契約を移転する方法が利用されることがありました。

その後、解約返戻率が高くなった時期に個人が解約すると、名義変更時の評価額と受取額との差額を個人側で得られる仕組みです。

2021年の見直しにより、一定の契約では、解約返戻金相当額が法人の資産計上額に比べて著しく低い場合、資産計上額を基準に評価することになりました。

これにより、低解約返戻金期間を利用して、保険契約の経済的価値を低額で個人へ移転する方法は制限されています。

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退職金として名義変更する場合の経理処理

役員や従業員の退職時に、法人契約の生命保険を退職金の一部として現物支給することがあります。

この場合、個人へ移転する保険契約の評価額を退職金として計上し、法人が資産計上している保険積立金や前払保険料を取り崩します。

仕訳例1|評価額が解約返戻金相当額の場合

次の条件で、役員退職金として保険契約を現物支給するとします。

  • 法人の資産計上額:500万円
  • 名義変更時の解約返戻金相当額:400万円
  • 解約返戻金の資産計上額に対する割合:80%
  • 税務上の評価額:400万円

仕訳例は次のとおりです。

借方 金額 貸方 金額
役員退職慰労金 4,000,000円 前払保険料 5,000,000円
保険契約譲渡損 1,000,000円

評価額400万円を退職金として計上し、帳簿価額500万円との差額100万円を保険契約譲渡損などで処理します。

勘定科目は企業の会計方針によって異なり、「雑損失」「保険契約売却損」などを使用する場合もあります。

仕訳例2|70%判定により資産計上額で評価する場合

次の条件を想定します。

  • 法人の資産計上額:500万円
  • 解約返戻金相当額:300万円
  • 解約返戻金の資産計上額に対する割合:60%
  • 70%判定の対象となる契約
  • 税務上の評価額:500万円

仕訳例は次のとおりです。

借方 金額 貸方 金額
役員退職慰労金 5,000,000円 前払保険料 5,000,000円

評価額と帳簿価額が同額であるため、保険契約の譲渡損益は発生しません。

帳簿価額より評価額が高い場合

評価額が帳簿価額を上回る場合は、その差額を譲渡益として計上します。

たとえば、帳簿価額300万円の保険契約を評価額400万円で現物支給する場合の仕訳例は次のとおりです。

借方 金額 貸方 金額
役員退職慰労金 4,000,000円 前払保険料 3,000,000円
保険契約譲渡益 1,000,000円

譲渡益100万円は法人の益金になります。一方、役員退職慰労金400万円は、適正な退職金の範囲内であれば損金算入を検討できます。

退職金の適正額を確認する

保険契約を退職金として現物支給しても、評価額の全額が必ず法人の損金として認められるわけではありません。

役員退職金が不相当に高額と判断された場合、過大部分は損金不算入になる可能性があります。

役員退職金の適正額を検討するときは、一般に次の要素を確認します。

  • 役員としての勤続年数
  • 退職時の月額報酬
  • 役職と職務内容
  • 会社への功績
  • 同業・同規模法人の支給水準
  • 現金で支給する退職金との合計額

「最終月額報酬×役員勤続年数×功績倍率」は目安として利用されることがありますが、法律で一律に認められた計算式ではありません。

保険契約の評価額だけでなく、現金や他の資産で支給する退職金も合算して適正額を判断しましょう。

退職金や給与として無償で譲渡するのではなく、役員や従業員が法人から保険契約を適正な価額で買い取る方法もあります。

この場合、個人は法人へ譲渡代金を支払い、法人は受け取った現金と保険契約の帳簿価額との差額を譲渡損益として処理します。

仕訳例|帳簿価額500万円、譲渡価額400万円

  • 法人の資産計上額:500万円
  • 税務上の評価額:400万円
  • 個人が支払う譲渡代金:400万円
借方 金額 貸方 金額
現金預金 4,000,000円 前払保険料 5,000,000円
保険契約譲渡損 1,000,000円

法人は個人から400万円を受け取り、帳簿価額との差額100万円を譲渡損として処理します。

適正な評価額より安く譲渡した場合

保険契約の適正な評価額が400万円であるにもかかわらず、役員へ100万円で譲渡した場合、差額300万円は役員へ与えた経済的利益とみなされる可能性があります。

在職中の役員に対する低額譲渡であれば、差額部分が給与または役員賞与として課税される可能性があります。

法人側では、役員給与の損金算入要件を満たさず、差額が損金不算入になるリスクもあります。

有償譲渡を行う場合は、適正な評価額を確認し、実際に個人から法人へ代金を支払ったことがわかる記録を残しましょう。

取締役会議事録などを残す

役員との取引は、法人とその役員との利益相反取引に該当する可能性があります。

会社法上必要となる承認手続きのほか、税務調査で取引の合理性を説明できるよう、次の資料を保存しておきましょう。

  • 取締役会議事録または株主総会議事録
  • 保険契約の譲渡契約書
  • 解約返戻金証明書
  • 評価額の計算資料
  • 法人の資産計上残高がわかる元帳
  • 個人から法人への入金記録
  • 保険会社の名義変更完了通知

名義変更を受けた個人側に発生する税金

個人側の課税関係は、保険契約をどのような理由・方法で取得したかによって異なります。

退職金として受け取る場合

役員や従業員が実際に退職し、その退職に基因して保険契約を現物支給された場合、適正な評価額は退職所得として取り扱われる可能性があります。

一般的な退職所得の計算式は、次のとおりです。

(退職金の収入金額-退職所得控除額)×2分の1

退職所得控除額は、一般に勤続年数に応じて次のように計算します。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数。最低80万円
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

ただし、勤続年数が短い役員等に対する退職金などでは、2分の1課税が適用されない場合があります。

また、形式上は退職していても、実質的に退職したと認められない場合は、退職所得として扱われない可能性があります。

在職中に無償で譲渡された場合

役員や従業員が退職していない状態で、法人から保険契約を無償で受け取った場合、その評価額は給与所得として課税される可能性があります。

個人側には所得税・住民税が発生し、法人側では源泉徴収が必要になる場合があります。

役員への無償譲渡は、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与の要件を満たさない役員給与として、法人側で損金不算入になる可能性もあります。

適正な価額で買い取った場合

個人が税務上適正な評価額を法人へ支払って保険契約を取得した場合、個人は経済的利益を無償で受けたわけではないため、名義変更時の給与課税は通常生じにくいと考えられます。

ただし、実際の支払額が適正な評価額を下回る場合は、差額について給与課税などが生じる可能性があります。

名義変更後に個人が解約した場合

名義変更後、個人が保険契約を解約して解約返戻金を受け取った場合は、契約関係や受取方法に応じて一時所得などの対象になる可能性があります。

一時所得の一般的な計算式は次のとおりです。

総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額50万円

一時所得の金額の2分の1を、他の所得と合算して課税所得を計算します。

ただし、名義変更前に法人が支払った保険料のすべてを、個人の一時所得計算上の必要経費として差し引けるとは限りません。

個人が法人へ支払った取得価額、名義変更時に給与・退職所得として課税された評価額、名義変更後に個人が負担した保険料など、どの金額を控除できるかは契約・課税関係によって判断します。

将来の解約まで含め、税理士へ確認したうえで名義変更を行いましょう。

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法人保険の名義変更では、保険契約の評価、法人側の経理処理、個人側の所得税、役員退職金の適正額を一体として検討する必要があります。退職金設計や出口戦略を含め、自社に合った方法を専門スタッフが一緒に考えます。

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医療保険を法人から個人へ名義変更する場合

法人が契約者となっている終身医療保険を、役員・従業員の退職時などに個人へ移すケースがあります。

解約返戻金がない、または少額の医療保険では、名義変更時の評価額も低くなることがあります。

しかし、解約返戻金がゼロだからといって、必ず評価額もゼロになり、法人・個人ともに税負担が生じないとは限りません。

無解約返戻金型でも確認が必要

終身医療保険には、保険料払込期間中の解約返戻金をなくすことで、保険料を抑えた商品があります。

短期払いなどで保険料の払込みが完了していれば、個人は名義変更後に保険料を支払わず、終身の医療保障を受けられることがあります。

そのため、解約返戻金がゼロであっても、保険料払込済みの保障を受ける権利に一定の経済的価値があるのではないかという税務上の論点が生じます。

契約の評価方法は、保険種類、契約日、保険料の法人側の経理処理、資産計上額などによって判断する必要があります。

法人側に資産計上額がない場合

法人が保険料を全額損金算入しており、帳簿上の保険積立金や前払保険料がない場合、名義変更時に取り崩す資産はありません。

ただし、個人へ移転する保険契約に税務上の評価額がある場合は、その評価額を退職金や給与として計上する必要があります。

たとえば、評価額が50万円で、帳簿価額がゼロの契約を退職金として現物支給する場合、法人側の仕訳例は次のとおりです。

借方 金額 貸方 金額
役員退職慰労金 500,000円 保険契約譲渡益 500,000円

退職金50万円と譲渡益50万円が両建てで計上されるため、法人所得への影響が相殺される場合があります。

ただし、退職金として損金算入できるかどうかは、役員退職金の適正額や実質的な退職の有無によって判断されます。

30万円特例と名義変更時の評価は別の問題

一定の第三分野保険では、被保険者1人あたりの年間支払保険料が30万円以下の場合に、法人が保険料を全額損金算入できる取扱いがあります。

しかし、保険料支払時に全額損金算入できるかどうかと、将来個人へ名義変更するときの保険契約の評価額は、別の税務問題です。

保険料を全額損金算入していたからといって、個人へ無償で移しても必ず課税されないという意味ではありません。

名義変更時には、あらためて保険契約の適正な評価額を確認してください。

福利厚生として導入する場合

法人が従業員の福利厚生を目的として医療保険へ加入し、将来個人へ移す仕組みを設ける場合は、特定の役員や従業員だけを優遇していないかも確認する必要があります。

対象者、加入条件、名義変更の時期、退職時の取扱いなどを福利厚生規程や退職金規程で明確にしておきましょう。

役員だけを対象とする契約や、恣意的な無償譲渡は、福利厚生費ではなく給与や役員賞与として扱われる可能性があります。

法人保険の名義変更で注意すべきポイント

契約日と名義変更日の両方を確認する

法人保険の税務上の取扱いは、保険の契約日と名義変更日の組み合わせによって異なる場合があります。

とくに確認したい時期は、次のとおりです。

  • 2019年の法人向け定期保険等に関する通達改正前後
  • 2021年の保険契約に関する権利の評価方法の見直し前後

ただし、日付だけで適用関係が決まるとは限りません。契約している保険の種類、最高解約返戻率、法人側の経理処理なども確認してください。

保険会社の資料だけで税務判断を完結しない

保険会社から提供される設計書や経理処理資料は重要ですが、個別法人の税務処理を保証するものではありません。

名義変更前には、次の資料を税理士へ提示しましょう。

  • 保険証券
  • 契約日と契約内容がわかる設計書
  • 解約返戻金推移表
  • 名義変更予定日の解約返戻金証明書
  • 法人の保険料仕訳
  • 保険積立金・前払保険料の元帳
  • 払済変更などの契約変更履歴

払済保険への変更歴を確認する

名義変更前に保険契約を払済保険へ変更している場合、単純に払済変更後の解約返戻金だけで評価できないことがあります。

元の保険契約や、法人の資産計上額を踏まえた評価が必要になる場合があるため、払済変更前後の資料を保存しておきましょう。

退職の事実と時期を明確にする

退職所得として扱うためには、名義変更が実際の退職に基因して行われたことが必要です。

代表取締役を退任した後も実質的に経営を継続している場合や、役職名だけを変更して職務内容がほとんど変わらない場合は、税務上の退職と認められない可能性があります。

退職日、名義変更日、株主総会決議日、退職金支給日などの関係を整理しましょう。

名義変更後の保険料負担者を変更する

法人から個人へ契約者を変更した後も、法人が保険料を支払い続けると、その保険料が個人に対する給与として扱われる可能性があります。

名義変更後は、保険料の引き落とし口座やクレジットカードも個人名義へ変更してください。

名義変更前に解約返戻金の推移を確認する

名義変更時の評価額だけでなく、その後の解約返戻金の推移も確認しましょう。

名義変更直後に個人が解約する計画は、取引全体の合理性や租税回避目的を疑われる可能性があります。

退職後も保障を継続するのか、解約するのか、保険金を受け取るまで保有するのかを含めて出口を設計することが重要です。

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名義変更前に準備したい書類

法人保険を個人へ名義変更する場合は、保険会社への手続き書類だけでなく、会計・税務上の根拠資料も準備する必要があります。

保険会社へ提出する主な書類

  • 契約者変更請求書
  • 法人の印鑑証明書
  • 法人の登記事項証明書
  • 新しい契約者の本人確認書類
  • 被保険者の同意書
  • 新しい保険料振替口座の届出書
  • 保険証券

必要書類は保険会社や契約内容によって異なります。

法人内部で保存する主な書類

  • 取締役会議事録
  • 株主総会議事録
  • 退職金規程
  • 退職金計算書
  • 保険契約譲渡契約書
  • 解約返戻金証明書
  • 保険契約の評価計算書
  • 帳簿価額の確認資料
  • 個人からの入金記録
  • 源泉徴収関係書類

有償譲渡の場合は、譲渡契約書に譲渡日、譲渡価額、支払方法、名義変更後の保険料負担者などを記載しておきましょう。

まとめ

法人保険を役員や従業員へ名義変更する場合、法人側では、保険契約に関する権利の譲渡として経理処理します。

基本的な処理は、法人が帳簿に計上している保険積立金や前払保険料を取り崩し、個人への譲渡価額との差額を保険契約の譲渡損益として計上する方法です。

退職金として現物支給する場合は、保険契約の評価額を役員退職慰労金などで処理します。有償譲渡の場合は、個人から受け取った現金を計上します。

名義変更時の保険契約の評価額は、原則として解約返戻金相当額です。

ただし、2021年の所得税基本通達の見直しにより、一定の定期保険等では、解約返戻金相当額が法人の資産計上額の70%未満となる場合に、資産計上額を基準として評価する取扱いが設けられました。

たとえば、資産計上額500万円、解約返戻金300万円の対象契約では、解約返戻金の割合は60%です。70%未満となるため、税務上の評価額を500万円とする場合があります。

一方、資産計上額500万円、解約返戻金400万円であれば割合は80%となり、原則的な解約返戻金相当額400万円を評価額とします。

70%判定は、すべての保険契約に適用されるわけではありません。保険の契約日、保険種類、最高解約返戻率、法人側の経理処理、名義変更日などを確認する必要があります。

退職に伴って保険契約を現物支給する場合、個人側では評価額が退職所得になる可能性があります。

ただし、形式的な退職にすぎない場合や、退職金が不相当に高額な場合は、退職所得として認められなかったり、法人側で一部が損金不算入になったりする可能性があります。

在職中に無償または低額で譲渡した場合は、個人側で給与所得として課税され、法人側では役員給与の損金算入が認められない可能性があります。

個人が適正な評価額で買い取る場合は、法人へ実際に代金を支払い、譲渡契約書や入金記録を保存しておきましょう。

終身医療保険など、解約返戻金がない、または少額の契約でも、必ず評価額がゼロになるとは限りません。

法人側に資産計上額がある場合や、保険料払込済みの保障に経済的価値がある場合は、契約内容に応じた評価が必要です。

また、保険料支払時に30万円特例などによって全額損金算入していたことと、将来の名義変更時の評価額は別の問題です。

法人保険の名義変更では、次の項目を一体として確認しましょう。

  • 保険契約の適正な評価額
  • 法人の帳簿価額
  • 退職金または譲渡価額
  • 役員退職金の適正額
  • 個人側の給与所得・退職所得
  • 名義変更後の解約時における課税
  • 取締役会・株主総会などの承認手続き

名義変更の経理処理と税務上の評価は、保険商品名だけでは判断できません。保険証券、解約返戻金証明書、法人の元帳、契約変更履歴などを用意し、実行前に顧問税理士と保険会社へ確認することが重要です。