生命保険は自殺(自死)でも保険金が支払われる?免責期間や支払い条件を正しく解説
大切なご家族を自死(自殺)で亡くされたとき、悲しみの中で「生命保険の保険金は受け取れるのだろうか」と不安に思われる方は少なくありません。生命保険には「自殺免責」と呼ばれる規定があり、一定の期間内に自死した場合は保険金が支払われないのが原則です。しかし、免責期間を経過した後の自死や、精神疾患が原因の自死など、保険金が支払われるケースもあります。この記事では、生命保険における自殺免責の仕組みから、保険金が支払われるケースと支払われないケース、ご遺族の請求手続き、あわせて確認しておきたい公的な給付までを、正確にわかりやすく解説します。
なお、いまつらい気持ちを抱えている方は、ひとりで抱え込まずに相談窓口をご利用ください。よりそいホットライン(0120-279-338/24時間・通話無料)、#いのちSOS(0120-061-338/24時間365日・通話無料)などで相談を受け付けています。厚生労働省のサイト「まもろうよ こころ」では、電話・SNSの相談先がまとめて紹介されています。
生命保険の「自殺免責」とは
自殺免責の基本ルール
生命保険には、被保険者が自殺(自死)した場合に保険金の支払いを免除する「自殺免責条項」が設けられています。これは保険法第51条第1号に基づく規定で、被保険者が故意に保険事故(死亡)を発生させた場合には、保険金を支払わないとするものです。
自殺免責が設けられている理由は、大きく分けて2つあります。1つは、保険金の受取りを目的とした自殺(保険の不当利用)を防止するためです。もう1つは、生命保険契約は偶然の事故に備えて締結されるものであり、故意に事故を起こす行為は契約の趣旨に反するためです。
なお、保険法自体は免責の期間を定めていません。実際の期間は、保険会社が約款のなかで定めています。そのため、支払いの可否を検討する際は、法律の条文ではなく、その契約の約款を確認することが出発点になります。
免責期間は一般的に「3年以内」
現在の多くの生命保険では、責任開始日から3年以内の自死について保険金を支払わないとする免責期間が設けられています。かつては免責期間が1年や2年の商品もありましたが、近年は3年が一般的です。
免責期間の起算日は、保険会社によって異なりますが、一般的には「責任開始日」(契約の申し込み・告知・第1回保険料の支払いがすべて完了した日)から計算されます。
契約の変更があった場合の起算日に注意
見落としやすいのが、契約に変更があった場合の扱いです。保険料の未払いで失効した契約を復活させた場合、復活日から新たに免責期間が起算されるとする約款が多くあります。
また、保険金額を増額した場合や、特約を追加した場合、あるいは契約を転換した場合にも、増額部分や新しい契約について免責期間が改めて設定されることがあります。ご遺族が「加入からもう何年も経っているから大丈夫」と考えていても、契約内容に変更があった場合は判断が変わることがあります。この点は保険会社に契約の履歴を確認してもらうのが確実です。
自死でも保険金が支払われるケース
免責期間経過後の自死
免責期間(一般的に3年)を経過した後の自死については、原則として死亡保険金が支払われます。最高裁判所は平成16年3月25日の判決(民集58巻3号753頁)で、免責期間経過後の自死について、犯罪行為が介在し保険金の支払いを認めることが公序良俗に反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合を除き、自死の動機や目的が保険金の取得にあったと認められるときであっても免責の対象とはしない、との判断を示しました。
つまり、免責期間を過ぎていれば、自死の背景に経済的な事情があった場合でも、特段の事情がなければ保険金は支払われるのが一般的な取り扱いです。
精神疾患が原因の自死(免責期間内でも支払われる可能性)
免責期間内の自死であっても、被保険者が精神疾患(うつ病、統合失調症など)のために自由な意思決定ができない状態で死亡した場合は、保険金が支払われる可能性があります。
生命保険における「自殺」とは、「故意に自己の生命を断つ行為」と解釈されています。精神疾患によって正常な判断能力が失われた状態での行為は、「故意」とは認められないという考え方です。この場合、保険法上の免責事由である「故意による死亡」には該当せず、保険金が支払われる余地があります。
ただし、精神疾患の影響で自由な意思決定ができなかったことの立証が必要であり、医師の診断書やカルテなどの証拠が重要になります。通院や服薬の記録、休職の経緯、職場や学校での状況を示す資料なども判断材料になり得ます。保険会社が自殺免責を主張して保険金を支払わない場合でも、弁護士を通じて請求することで支払いが認められたケースは少なくありません。
事故や過失による死亡と判断される場合
死亡の原因が「自殺」ではなく「事故」や「過失」であると判断される場合は、免責期間に関係なく保険金が支払われます。自死と事故の区別が困難なケースでは、死亡の状況や警察の捜査結果、医師の所見などを総合的に判断して保険会社が支払いの可否を決定します。
なお、故意による死亡であることの立証責任は、免責を主張する保険会社側にあると解されています。ご遺族が「自死ではないこと」を証明しなければならないわけではありません。
自死で保険金が支払われないケース
免責期間内の自死(原則)
責任開始日から免責期間(一般的に3年)以内の自死については、原則として死亡保険金は支払われません。これは、保険金の受取りを目的とした自死を防止するための措置です。
ただし、前述のとおり精神疾患の影響で自由な意思決定ができなかった場合は例外的に支払われる可能性があります。免責期間内に自死で亡くなった場合でも、すべてのケースで保険金が受け取れないとは限りません。
保険金取得を目的とした犯罪行為が介在する場合
免責期間を経過していても、保険金を詐取する目的で犯罪行為が介在している場合は、公序良俗に反するとして保険金が支払われないことがあります。たとえば、保険金殺人や第三者による教唆・幇助があった場合がこれに該当します。
このような場合は刑事事件としても捜査の対象となり、保険会社は保険金の支払いを拒否することができます。
告知義務違反が認められた場合
保険加入時に精神疾患の既往歴などを告知せず告知義務違反が認められた場合、保険会社は契約を解除し、保険金の支払いを拒否できる可能性があります。ただし、告知義務違反による解除には、責任開始日から一定期間(2年など、商品により異なります)を経過した後はできないといった制限が設けられています。
また、告知義務違反があっても、その事実と死亡との間に因果関係がない場合には保険金が支払われることがあります。解除を通知された場合でも、内容をよく確認することが大切です。
特約は主契約と扱いが異なることがある
一つの保険契約に複数の特約が付いている場合、それぞれで支払いの可否が分かれることがあります。たとえば、災害割増特約や傷害特約は「不慮の事故」による死亡を支払事由としているため、自死は対象外となるのが一般的です。
主契約の死亡保険金は支払われても特約部分は支払われない、という結果になり得ます。保険会社から支払額の連絡を受けた際は、どの契約・特約について支払われたのかを確認しておきましょう。
ご遺族が保険金を請求する際のポイント
まずは保険会社に連絡する
ご家族が亡くなった場合、死因に関わらず、まずは加入していた保険会社に連絡することが第一歩です。保険会社は死亡状況を確認したうえで、保険金の支払い可否を判断します。自死であっても、免責期間を経過している場合は保険金が支払われるのが原則ですので、「自殺だから請求できない」と諦めずに必ず連絡しましょう。
必要書類を準備する
死亡保険金の請求に一般的に必要な書類は、死亡保険金請求書(保険会社所定の用紙)、死亡診断書または死体検案書、被保険者の住民票(除票)、保険証券、受取人の本人確認書類、受取人の口座情報などです。
自死の場合は警察による検視が行われることが多く、医師が診療していない死亡として「死体検案書」が交付されます。死亡診断書とは書類の名称が異なるだけで、いずれも保険金請求に使えます。ただし交付までに時間がかかることがあり、保険会社が支払い判断のために追加の書類(診療録・カルテのコピーなど)を求めることもあります。
請求には時効がある
保険金の請求権には、一般に3年の時効があります。手続きを進める気力が湧かない時期が続くことは自然なことですが、期限があることは頭の片隅に置いておいてください。
時効が迫っている場合や、すでに過ぎてしまっている場合でも、事情によって保険会社が対応することもあります。まずは連絡してみることをおすすめします。
どの保険に入っていたか分からない場合
故人がどの保険会社の保険に加入していたかわからない場合は、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」を利用して調べることができます。所定の利用料がかかりますが、加盟する生命保険会社に一括で照会してもらえる仕組みです。
あわせて、通帳の引き落とし履歴、クレジットカードの明細、確定申告書の控除証明書、郵便物なども手がかりになります。住宅ローンがある場合は、団体信用生命保険の有無を金融機関に確認してください。
保険金が支払われない場合の対応
保険会社から保険金の支払いを拒否された場合でも、諦める必要はありません。精神疾患が原因の自死であれば、免責期間内であっても保険金が支払われた判例が多数あります。
支払いを拒否された場合は、まずその理由を書面で示してもらいましょう。そのうえで、生命保険協会の「生命保険相談所」に相談する方法があります。同協会は指定紛争解決機関であり、話し合いで解決しない場合には裁定審査会への申立てという手続きも用意されています。
弁護士に依頼する選択肢もあります。自死遺族の支援に取り組む弁護士や、保険金請求を扱う弁護士に相談してみてください。費用が心配な場合は、法テラス(日本司法支援センター)の無料法律相談や費用の立替制度を利用できることがあります。
保険金以外に確認しておきたい公的給付と税金
解約返戻金相当額が返還されることがある
自殺免責により死亡保険金が支払われない場合でも、保険契約に解約返戻金がある場合は、その解約返戻金相当額が遺族に返還されることがあります。終身保険や養老保険など貯蓄性のある保険に加入していた場合は、この返還金の有無を確認しましょう。
掛け捨て型の定期保険の場合は解約返戻金がほとんどないため、返還金も期待できません。
遺族年金は死因を問わず支給される
見落とされやすい重要な点ですが、公的年金の遺族給付には自死による免責の規定がありません。遺族基礎年金や遺族厚生年金は、保険料の納付要件や遺族の要件を満たしていれば、死因にかかわらず支給されます。
民間の生命保険で保険金が支払われなかった場合でも、公的な遺族給付は受けられる可能性があります。年金事務所または市区町村の窓口に相談してください。
業務が原因の場合は労災認定される可能性がある
仕事による強い心理的負荷によって精神障害を発病し、その結果として自死に至ったと認められる場合には、労働災害として認定されることがあります。認定されれば、遺族補償年金や葬祭料などが支給されます。
判断は「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づいて行われ、長時間労働、ハラスメント、業務内容の急変などが評価の対象となります。手続きは労働基準監督署への請求から始まります。判断が難しい分野ですので、労働問題に詳しい弁護士や社会保険労務士に相談するとよいでしょう。
死亡保険金にかかる税金は死因で変わらない
死亡保険金を受け取った場合の税務上の扱いは、死因によって変わりません。契約者と被保険者が同一で受取人が相続人であれば相続税の対象となり、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠も通常どおり適用されます。
相続税の申告と納付の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、申告は原則不要です。
生命保険に加入する際に知っておきたいこと
免責期間は約款で確認できる
自殺免責の期間は保険商品や保険会社によって異なります。現在は3年が一般的ですが、古い契約では1年や2年の場合もあります。加入中の保険の免責期間や支払事由は、約款や保険証券で確認できます。内容が分からない場合は、契約している保険会社のコールセンターに問い合わせれば説明を受けられます。
保険契約の存在を家族に共有しておく
万一のことがあった際に保険金の請求をスムーズに行うためには、保険契約の存在を家族に伝えておくことが大切です。保険証券の保管場所、保険会社名、証券番号、受取人の情報などを家族と共有しておきましょう。
これは自死に限った話ではなく、あらゆる場合に当てはまります。加入している保険を一覧にしておくだけでも、残された家族の負担は大きく軽くなります。
ひとりで抱えないために|相談できる窓口
いまつらい気持ちを抱えている方へ
死にたいという気持ちや、消えてしまいたいという思いを抱えているときは、その気持ちを言葉にして誰かに聞いてもらうことが助けになります。以下の窓口では、専門の相談員が話を受け止めてくれます。いずれも通話は無料です。
よりそいホットライン(0120-279-338/24時間対応)は、生活上の困りごとを含め幅広く相談できる窓口です。#いのちSOS(0120-061-338/24時間365日)は、死にたい気持ちを専門の相談員に相談できます。こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)に電話すると、かけた地域の公的な相談機関につながります。いのちの電話はフリーダイヤル0120-783-556(毎日16時〜21時、毎月10日は24時間対応)で受け付けています。
電話が難しい場合は、LINEやチャットで相談できる窓口もあります。厚生労働省のサイト「まもろうよ こころ」に、電話・SNSの相談先がまとめられています。
ご遺族が相談できる窓口
大切な方を自死で亡くされたご遺族のための支援も各地にあります。同じ経験をした方が集まる「分かち合いの会」や、自治体の精神保健福祉センターによる遺族相談などです。お住まいの地域の窓口は、都道府県・市区町村の精神保健福祉センターや保健所で案内を受けられます。
保険金や相続、労災などの手続きについて相談したい場合は、弁護士会の法律相談や法テラスも利用できます。手続きと気持ちの整理を同時に進めるのは大変なことです。使える支援は遠慮なく使ってください。
よくある質問(FAQ)
Q. 免責期間が過ぎていれば、自死でも必ず保険金はおりますか?
免責期間経過後の自死については、原則として保険金が支払われます。ただし、犯罪行為が介在している場合など、公序良俗に反する特段の事情がある場合には例外的に支払われないことがあります。一般的なケースでは、免責期間経過後であれば保険金が支払われると考えてよいでしょう。
Q. うつ病で亡くなった場合、免責期間内でも保険金はおりますか?
うつ病などの精神疾患の影響で正常な判断能力が失われた状態での自死は、「故意」とは認められないと判断される場合があります。その場合、免責期間内であっても保険金が支払われる可能性があります。ただし、立証が必要なため、医師の診断書やカルテなどの証拠を準備し、必要に応じて弁護士に相談することをおすすめします。
Q. 住宅ローンの団体信用生命保険(団信)も同じルールですか?
団体信用生命保険にも自殺免責条項が設けられているのが一般的です。免責期間は保険会社や商品によって異なりますが、通常の生命保険と同様に一定期間が定められています。免責期間を経過した後の自死であれば、団信の保険金によりローン残債が完済されるケースが多いですが、詳細は契約内容を確認してください。
Q. 保険金が支払われなかった場合、ローンや債務はどうなりますか?
団信で完済されない場合、住宅ローンは相続の対象となります。相続放棄や限定承認という選択肢もありますが、原則として相続の開始を知った時から3か月以内という期限があります。債務が資産を上回る可能性がある場合は、早めに弁護士や司法書士に相談してください。
Q. 保険会社に自死であることを伝えないほうがよいのでしょうか?
事実と異なる申告をすることは避けてください。詐欺による契約の取消しや保険金の返還を求められる可能性があり、かえって不利になります。免責期間を経過していれば原則として支払われますし、期間内でも精神疾患の影響が認められれば支払われる余地があります。事実を伝えたうえで、必要に応じて専門家の力を借りるのが確実な進め方です。
まとめ|保険金請求は諦めず、まずは保険会社に連絡を
生命保険には自殺免責の規定がありますが、免責期間(一般的に3年)を経過した後の自死については、原則として保険金が支払われます。免責期間内であっても、精神疾患の影響で自由な意思決定ができなかった場合は支払われる可能性があります。公的年金の遺族給付は死因を問わず支給され、業務が原因であれば労災認定される可能性もあります。
悲しみの中で手続きを進めることは大きな負担ですが、「自死だから保険金はおりない」と決めつけずに、まずは保険会社に連絡し状況を伝えることが大切です。支払いを拒否された場合でも、生命保険協会の相談所や弁護士に相談することで支払いが認められるケースは少なくありません。お困りの際は、ぜひ専門家にご相談ください。
いまつらい気持ちを抱えている方は、ひとりで抱え込まないでください。よりそいホットライン(0120-279-338/24時間)、#いのちSOS(0120-061-338/24時間365日)などで相談を受け付けています。