がん保険の受け取りに税金はかかる?非課税・課税の違いと医療費控除の注意点を解説
がんと診断されて給付金を受け取ったとき、「このお金に税金はかかるの?」「確定申告は必要?」と不安に思う方は少なくありません。結論から言えば、がん保険で受け取る給付金の多くは非課税です。
がん診断給付金、入院給付金、手術給付金などは、いくら受け取っても原則として所得税・住民税はかかりません。ただし、死亡保険金や解約返戻金、健康祝い金など一部の受け取りには税金がかかるケースがあります。
また、医療費控除を申告する際には受け取った給付金を差し引く必要があり、ここを誤ると申告のやり直しになることもあります。この記事では、がん保険の受け取りにかかる税金を種類別に整理し、医療費控除との関係や確定申告の要否まで解説します。
がん保険の給付金は原則「非課税」
非課税の根拠:所得税法の規定
がん保険で受け取る給付金のうち、病気やケガに対する補償として支払われるものは、所得税法第9条第1項第18号および同法施行令第30条第1号の規定により非課税とされています。これは、がんという身体の傷害に対する損害の補填であり、所得(もうけ)ではないと考えられているためです。
条文では「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」が非課税の対象と定められており、がんの治療に伴って支払われる給付金はこれに該当します。損害を埋めるためのお金は利益ではない、という考え方が根底にあります。
非課税になる主な給付金の種類
がん保険で受け取る給付金のうち、非課税となる主なものは、がん診断給付金(がんと診断確定されたときに受け取る一時金)、がん入院給付金(がんで入院した際に受け取る日額の給付金)、がん手術給付金(がんの手術を受けた際に受け取る給付金)、がん通院給付金(がんの治療で通院した際に受け取る給付金)、抗がん剤治療給付金・放射線治療給付金(所定の治療を受けた際に受け取る給付金)、先進医療給付金(先進医療を受けた際に受け取る給付金)、健康回復給付金(退院後の療養期間に受け取る給付金)です。
これらはいずれも、がんという疾病に起因して支払われる給付金であるため、金額に関わらず非課税として扱われます。
金額が大きくても課税されない
この非課税の取り扱いは、受け取る金額の大小に関係なく適用されます。がん診断給付金が100万円であっても500万円であっても、病気に対する給付金である限り税金はかかりません。確定申告をする必要もありません。
同時に、非課税であるということは「所得として扱われない」ことも意味します。そのため、給付金を受け取ったことで翌年の住民税や国民健康保険料が上がる、といった影響も生じません。安心して治療費や生活費に充てることができます。
受取人が本人以外でも非課税になる場合がある
給付金の受取人が被保険者本人でない場合はどうなるのか、という疑問もあります。この点について、給付金を受け取る人が身体に傷害を受けた本人の配偶者、直系血族、または生計を一にするその他の親族であるときは、本人が受け取った場合と同様に非課税として取り扱われます。
たとえば、夫ががんで入院し、契約上の受取人である妻が入院給付金を受け取った場合も非課税です。家族が受取人になっているケースは多いため、押さえておくとよいポイントです。
がん保険の受け取りで税金がかかるケース
死亡保険金を受け取った場合
がん保険に死亡保障が付いている場合、被保険者が亡くなった際に支払われる死亡保険金には税金がかかります。死亡保険金は「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」には該当しないと解されているためです。
課される税金の種類は、契約者・被保険者・受取人の関係によって異なります。契約者と被保険者が同一人物で、受取人が相続人の場合は相続税の対象です。ただし、死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があるため、この範囲内であれば相続税はかかりません。契約者と受取人が同一人物の場合は所得税(一時所得)の対象となり、契約者・被保険者・受取人がすべて異なる場合は贈与税の対象となります。
なお、この非課税枠が使えるのは相続人が受け取った場合です。相続を放棄した人や相続人以外の人が受け取った場合には適用されないため、注意が必要です。
解約返戻金を受け取った場合
貯蓄性のあるがん保険を途中で解約した場合、解約返戻金を受け取ることがあります。解約返戻金が払込保険料の累計額を上回った場合、その差額が一時所得として所得税の課税対象となります。
一時所得の計算式は、(解約返戻金 − 払込保険料の累計額 − 特別控除50万円)× 1/2 です。差額が50万円以内であれば実質的に税金はかかりませんが、長期間加入して解約返戻金が大きくなっている場合は注意が必要です。
健康祝い金・生存給付金を受け取った場合
がん保険の中には、一定期間がんにならなかった場合に「健康祝い金」や「生存給付金」が支払われるタイプがあります。これらの給付金は、病気に対する補償ではなく「がんにならなかったことへのお祝い」という性質であるため、一時所得として所得税の課税対象となります。
ただし、一時所得には年間50万円の特別控除があるため、健康祝い金の金額が他の一時所得と合算して50万円以内であれば、実際に税金を納める必要はありません。
満期保険金を受け取った場合
定期タイプのがん保険で満期保険金が設定されている場合、満期保険金を受け取ると一時所得として所得税の課税対象になります。満期保険金から払込保険料の累計額を差し引いた金額が50万円を超える場合、超えた部分の2分の1が課税所得に加算されます。
近年のがん保険は掛け捨て型が主流のため、満期保険金が出る商品は少なくなっていますが、古い契約のがん保険には満期保険金があるタイプもあるため、契約内容を確認しておきましょう。
課税・非課税を分ける考え方
整理すると、判断の軸は「病気やケガによる損害を埋めるために支払われるお金かどうか」です。治療に伴って支払われる給付金は損害の補填なので非課税、がんにならなかったことで受け取るお金や、払い込んだ保険料が増えて戻ってくるお金は利益とみなされるため課税対象になります。
この軸を押さえておけば、商品ごとに名称が違っても見当をつけやすくなります。判断に迷う給付金があれば、保険会社に「この給付金は課税対象か」を確認するのが確実です。
がん保険の給付金と医療費控除の関係
医療費控除の基本的な仕組み
医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得から差し引ける制度です。差し引ける金額は、実際に支払った医療費から保険金などで補填された金額を引き、さらに10万円(総所得金額等が200万円未満の方は総所得金額等の5%)を引いた額で、上限は200万円です。
自分自身の医療費だけでなく、生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費も合算できます。がん治療では通院のための公共交通機関の交通費も対象になりますが、自家用車のガソリン代や駐車場代は対象外です。
医療費控除を申告する際は給付金を差し引く必要がある
がん保険の給付金は非課税ですが、確定申告で医療費控除を受ける場合には注意が必要です。医療費控除の計算では、自己負担した医療費の合計額から「保険金などで補填された金額」を差し引く必要があるためです。
たとえば、がん治療で年間100万円の医療費がかかり、がん入院給付金として50万円を受け取った場合、医療費控除の対象となる金額は「100万円 − 50万円 − 10万円(足切り額)=40万円」となります。給付金を差し引かずに申告すると、過大な控除を受けたことになり、後から修正を求められる可能性があります。
差し引く必要がある給付金と差し引かなくてよい給付金
医療費控除の計算で差し引く必要があるのは、「医療費を補填する目的」で支払われた給付金です。具体的には、がん入院給付金、がん手術給付金、がん通院給付金、先進医療給付金などが該当します。公的制度である高額療養費や、健康保険組合の付加給付も同様に差し引きます。
一方、休業中の所得を補うために支払われる傷病手当金は、医療費を補填するものではないため差し引く必要がありません。死亡保険金も差し引きの対象外です。
がん診断給付金(一時金)についても、使途が限定されていない給付金であるため、医療費控除の計算で差し引く必要はないとされるケースが一般的です。ただし、税務上の取り扱いは個別の契約内容や税務署の判断によって異なる場合があるため、不明な場合は税務署や税理士に確認することをおすすめします。
給付金が医療費を上回った場合
がん保険の給付金が実際にかかった医療費を上回った場合でも、超過分を他の医療費から差し引く必要はありません。差し引きは、給付金の対象となった治療にかかった医療費の範囲内で行います。
たとえば、がんの入院費が30万円で入院給付金が50万円だった場合、差し引く金額は30万円までです。超過した20万円を他の疾病の医療費から差し引く必要はなく、その20万円は手元に残ります。年末をまたぐ入院などで治療が複数年に分かれる場合も、それぞれの年の医療費と給付金を対応させて計算します。
給付金の額が確定していないときの扱い
確定申告の時期までに給付金の金額が確定していないこともあります。その場合は、受け取れる見込みの金額を差し引いて計算し、申告することになります。
後日、実際の給付額が見込みと異なった場合は、修正申告または更正の請求によって精算します。申告時点で分かる範囲の見込額を使い、確定後に差が出たら手続きするという流れを理解しておけば、申告時期を過ぎてしまう心配はありません。
医療費控除は5年前まで申告できる
医療費控除の申告を忘れていた場合でも、5年前までさかのぼって還付申告ができます。がんの治療で医療費がかさんだ年に申告していなかった方は、確認してみる価値があります。
医療費控除の明細書を提出する場合、医療費の領収書は提出せずに自宅で5年間保管する扱いになっています。保険会社から届く給付金の支払通知書も、給付金の額を証明する資料として一緒に保管しておきましょう。
確定申告が必要なケース・不要なケース
確定申告が不要なケース
がん保険から受け取った給付金が非課税のもの(診断給付金、入院給付金、手術給付金など)だけであれば、確定申告は不要です。いくら受け取っても所得として申告する必要はありません。
ただし、医療費控除を申告したい場合は確定申告が必要です。医療費控除は年末調整では申告できないため、会社員の方でも確定申告を行う必要があります。
確定申告が必要なケース
確定申告が必要になるのは、がん保険から課税対象となる保険金・給付金を受け取った場合です。具体的には、死亡保険金を受け取った場合(所得税・相続税・贈与税のいずれかの申告が必要)、解約返戻金が払込保険料を上回る差益が出た場合(一時所得として所得税の申告が必要)、健康祝い金や生存給付金が他の一時所得と合わせて50万円を超えた場合(一時所得として所得税の申告が必要)などが該当します。
課税対象の保険金・給付金を受け取った場合は、翌年の2月16日〜3月15日の確定申告期間に申告を行いましょう。
相続税の申告が必要になる場合
死亡保険金が相続税の対象となる場合、相続税の申告は所得税の確定申告とは別の手続きです。申告と納付の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内で、確定申告の期限とは異なります。
遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、相続税の申告は原則として不要です。ただし、死亡保険金の非課税枠や各種の特例を適用して基礎控除以下になる場合は、申告が必要になることもあります。判断が難しい部分ですので、税理士に確認するのが安全です。
申告に備えて残しておきたい書類
治療が始まったら、書類を年ごとにまとめて保管する習慣をつけておくと申告の負担が軽くなります。用意しておきたいのは、医療機関や薬局の領収書、健康保険組合から届く医療費通知、保険会社から届く給付金の支払通知書、通院にかかった交通費の記録です。
がんの治療は長期にわたることが多く、後から領収書を集めるのは大変です。封筒やファイルを一つ決めて、そこに入れていくだけでも十分です。
がん保険の保険料は生命保険料控除の対象
介護医療保険料控除に該当
がん保険の保険料は、生命保険料控除のうち「介護医療保険料控除」の対象です。年末調整や確定申告で申告すれば、所得税では最大40,000円、住民税では最大28,000円の所得控除を受けることができます。
控除を受けるためには、保険会社から届く「生命保険料控除証明書」を年末調整時に勤務先に提出するか、確定申告の際に添付する必要があります。がん保険に加入している方は、毎年忘れずに申告しましょう。
医療保険や就業不能保険と同じ控除枠
介護医療保険料控除の枠は、医療保険・がん保険・介護保険・就業不能保険で共通です。複数の保険に加入している場合は保険料を合算して控除額が計算されますが、控除の上限額は所得税40,000円・住民税28,000円で頭打ちとなります。
すでに医療保険で控除枠を使い切っている場合でも、がん保険の保障は治療費や生活費をカバーする重要な役割を果たすため、控除のためだけでなく保障の必要性で加入を判断することが大切です。
2011年以前の契約は控除の区分が異なる
2011年12月31日以前に契約したがん保険は、旧制度が適用され「一般生命保険料控除」の区分になります。旧制度には介護医療保険料控除の区分がなく、上限額も所得税5万円・住民税3万5,000円と異なります。
古い契約と新しい契約の両方をお持ちの場合は、区分ごとに計算が分かれます。控除証明書に新旧の区分と該当する控除区分が記載されているため、自分で判断せず証明書の記載どおりに申告するのが確実です。
よくある質問(FAQ)
Q. がん診断給付金を500万円受け取りました。税金はかかりますか?
がん診断給付金は、がんという疾病に対する給付金であるため、金額に関わらず非課税です。500万円を受け取っても所得税や住民税はかかりません。確定申告も不要です。ただし、医療費控除を申告する場合は、入院給付金や手術給付金など医療費を補填する性質の給付金を自己負担医療費から差し引く必要があります。
Q. がんで亡くなった家族の死亡保険金を受け取りました。税金はかかりますか?
死亡保険金には税金がかかります。契約者と被保険者が同一で受取人が相続人の場合は相続税の対象ですが、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が適用されます。契約者・被保険者・受取人の関係によって、所得税や贈与税が課される場合もあるため、契約内容を確認のうえ税理士に相談することをおすすめします。
Q. がん保険の給付金を受け取ったら医療費控除は受けられないのですか?
医療費控除自体は受けられます。ただし、自己負担した医療費から、保険金や給付金で補填された金額を差し引いて計算する必要があります。差し引く対象は入院給付金や手術給付金など医療費を補填する性質のもので、がん診断給付金(一時金)は差し引かなくてよいとされるケースが一般的です。詳しくは税務署や税理士にご確認ください。
Q. 傷病手当金も医療費から差し引く必要がありますか?
差し引く必要はありません。傷病手当金は療養のために働けなかった期間の所得を補うものであり、医療費を補填するために支払われるものではないためです。一方、高額療養費や健康保険組合の付加給付は医療費の補填にあたるため、差し引いて計算します。
Q. 給付金を受け取ると健康保険料や住民税は上がりますか?
非課税の給付金であれば影響しません。所得として扱われないため、住民税や国民健康保険料の算定にも含まれません。ただし、解約返戻金や健康祝い金などの課税対象となる受け取りがあった場合は、その分が所得に加算されて保険料などに影響する可能性があります。
Q. 家族の医療費とまとめて医療費控除を申告できますか?
生計を一にする家族の医療費であれば合算して申告できます。誰が申告するかは自由に選べるため、一般的には所得が高い方がまとめて申告したほうが節税効果が大きくなります。ただし総所得金額等が200万円未満の方は足切り額が5%になるため、必ずしも所得が高い方が有利とは限りません。両方で試算して比べるとよいでしょう。
Q. 給付金の請求を忘れていました。今からでも受け取れますか?
保険金・給付金の請求権には一般に3年の時効がありますが、時効を過ぎていても保険会社が事情を考慮して支払いに応じるケースもあります。過去の入院や手術について請求漏れがある場合は、諦めずに保険会社に問い合わせてみてください。
まとめ|がん保険の給付金は原則非課税。ただし一部の受け取りには注意
がん保険で受け取る給付金の多くは非課税であり、がん診断給付金・入院給付金・手術給付金・通院給付金などは、金額に関わらず税金がかからず確定申告も不要です。一方で、死亡保険金、解約返戻金、健康祝い金、満期保険金などには税金がかかる場合があり、確定申告が必要になるケースもあります。
また、医療費控除を申告する際には、受け取った給付金のうち医療費を補填する性質のものを自己負担医療費から差し引く必要があります。差し引く給付金と差し引かなくてよい給付金を正しく区別することが、適正な申告のポイントです。がん保険の税金や控除について不安がある場合は、ぜひ専門家にご相談ください。